ウルトラマンコスモス     THE FIRST CONTACT

 9月

Pre-production

 朝から晩まで机にかじりついているなんてことは学生だったとき以来ついぞしていない、というか、学校だって体育はあるし美術はある、音楽だってあるかもしれない、というか、そもそも集中して授業なんか聞いちゃいない(自慢か?)

 それが昼飯で1時間、3時に10分ほどの休息を入れただけでぶっ続けの打ち合わせだ、ノートの端にいたずら描きをしたり、居眠りをしたり、教科書に挟んだ文庫本を読んだり、早弁をしたり(※あくまでも抽象的な事例です)するわけにはいかない。
 映画の中の特殊効果を要するだろう全てのカットについて「どうやって撮るか?」を詳細に検討していくのだ。

 出来るに決まっているカットは問題ない、やったことのない仕掛けや効果を要求された場合、それが出来るか出来ないか、出来るとしてなにか条件をここで付けておく必要はないか、出来ないとしてもないか代案はないか即答する必要がある、だから頭をフル回転させておく必要がある。
 あっちはああでしたからこのカットはこうして下さいとか、美術部のほうでこういうことをしてくれればこんなことも出来ますが、といったネゴシエートする必要もある、終わるとどっと疲れる、うまくいきそうにないカットを引き受けてしまうとよけいにそうだ。

 これが4日間続く。

 昨年の村石監督、一昨年の小中監督はともに、自分の欲しい絵を説明したらその実現方法についてはスタッフに任せるというスタンスであった、特に特撮については技法について口を出してくることはめったになく我々操演部は技術的な側面に関しては大岡カメラマンと打ち合わせをすればそれで事足りていた。

 とこらが今年はそうはいかない、監督の飯島氏はウルトラマンのバルタン星人、セブンのクレージーゴンの回などを担当した古い方だが長く監督業から離れていたこともあってデジタル技術の橋渡し役として北浦監督が「監督補」という立場で付いている、さらに今年は佐川氏が特撮監督として参加する、監督と名がつく人間が3人いるのだ。

 大岡カメラマンが技術面での総元締めであるという事実は変わらず、さらに打ち合わせでは鈴木プロデューサーも参加する、プロデューサーも人によっては一度監督を立てたからには自分はサポートに回り現場はいっさいお任せする、というタイプもいるが鈴木氏はそうではない、元カメラマンであり監督でもあった鈴木氏は打ち合わせではテーマから技術的側面にまで意見を出してくる、技術面で一番おとなしい(?)のは飯島監督と言える。
 
 それでもまあロジカルに割り切れるものはさして問題ではない、問題なのはイメージだ、たとえば怪獣の背が割れて火山の噴火のような現象がおこり中からその怪獣を操っていた宇宙人(等身大)が現れる、というカットがあるのだが、佐川監督は「噴火」を文字通りマグマが吹き上げ黒煙を吹き出し、溶岩が流れ出すというイメージで捉えており、絵コンテもそのようなイメージに上がってきていたのだが「他の3人」はそうではなかったらしい。

「これは噴火というシナリオの言葉にあまりとらわれないほうがいいんじゃないか」
「ドラゴン(花火)の吹き出しみたいなイメージじゃないの」
「あくまで怪獣なんだから火山の噴火とはまた違って・・」
「溶岩の流れが血に見えて今回の映画で避けようとしている生々しさが出てしまう可能性があるかも」
「これはあくまで****星人登場の舞台を作るという意味なんだな」

 全然まとまらない。

 皆それぞれ違うイメージを抱いているらしい、実際イメージカットに近いので(上の最後の意見がそれを端的に言い表している)しょうがないことではあるのだが実行者である私は困る、煙はアリなのかあるとすればそれは白なのか黒なのか、火は見えたほうがいいのかそれとも内部が高熱であるというような照り返しであるべきなのか、まとまらなければ火薬も機材も準備できない。

 まあ打ち合わせはともかく、特撮の現場でOKを出すのは佐川監督なので佐川寄り(?)のイメージを中心に自分なりの解釈で結果を出して見せるしかないとは思うのだが。

 それでも現場に監督がいてその場でOK、NGを出し、NGであるならばどうあって欲しいのか聞ける操演部はマシかもしれない。

 かわいそうなのはCG班である、普通の撮影であればカメラを回す以前に監督は美術、カメラアングル、照明の具合をチェック出来るし、回してOKならそのカットはおしまいだ。ところがフルCGカットというのは演出も美術も撮影も照明も一人でやるという意味であり、全て終わって完成してみて始めて監督のチェックが入るのである。

 それこそロジカルなカットであれば問題はないだろうが、イメージカットはイヤだと思う。
 「このシーンは感動的なシーンなので印象的な、泣けるシーンにしてください」なんて注文されても困るだろう。