ウルトラマンティガ-ザ・ファイナルオデッセイ

特撮
 



 10月7日(木)

 日活第8ステージ、9時開始「石像の間」

 いよいよ特撮の開始、特撮はビデオ版ウルトラセブン以来なので半年ぶりということになる、本編操演も変化があってよいがやはりミニチュアの組まれた特撮ステージに立つとここが自分にいる場所だと思う。

 古代遺跡の奥に3体の石像が発見されるシーンから、始めはスチロール製の石像を使い全景、寄りを撮る、操演的にはFOGを焚くくらいしかないのでそれは演出部にまかせ我々は12ステージ(以後stと表記)にワイヤー親線を張りに行く。

 「親線」とはステージ上部に張り渡したワイヤー(またはピアノ線)とその上を走る「台車」のセットを言う、台車から垂らしたピアノ線で人やミニチュアを吊り、台車を動かすことでそれらを「飛ばす」のである。

 ワイヤー親線はおもに人吊り用である、ワイヤーの方が大きな荷重に耐えられるのだが台車が走る時ワイヤーの編み目の凹凸を拾って振動するので繊細な飛びには向かない、そこでミニチュアなどの軽いものは直径1.5ミリほどのピアノ線を使うことになっている。

 ワイヤーは直径6ミリほどのスチールワイヤーで重量戸車の付いた「台車」がそれにぶら下がっている、規模の小さいロープウェイと思えば間違いがないだろう、ロープウェイと同じく台車の前後には駆動用のロープ(これはワイヤーではなくパワーロープというザイルの細いもの)が結びつけられており、セットの端に付けられた滑車を通してループ状になっている、ロープウェイではモータがこれを回転させるがワイヤー親線の場合は人間がロープを持って走ることによって台車を前後に動かすわけだ。

 日活の12stは今年始め、ビデオ版「ウルトラセブン」の際に親線を2本張ったばかりなので要領はわかっているし、そのとき作った道具を「日活親線セット」として残してあったので張るのは容易だった。

 午前中に親線張りは終了、8stからミニチュアのクレーンを動かしたいので来て下さいという連絡がくる。

 行くとすでにシーンが変わり石像の間にはTPCの持ち込んだクレーンがセットされている、このクレーンを何か作業をしている風に動かしてほしいのだと言う。

 しかし見てみるとこれが動かし用に作られたミニチュアではない、どこもなめらかに動かないしクレーンのワイヤーも何となく支柱にひっかかっているだけで巻き取れる用には出来ていない、前もって動かしたいと言っておいてくれれば先に仕込んでおいたのにと思うが、こんなことはクレーンが登場すると聞いた時点でこちらが考えておくべきだったとも思うので文句は言わない。

 監督は全体が回転するんでもいいよ、と言うのだがそういう仕掛けも持ってきていない、TVシリーズだと長い間に現場には色々な仕掛けが蓄積し、何をいわれてもとりあえずこなせるだけの道具が揃っているものだが、単発の映画では打ち合わせの結果必要と思われるものだけを持ってきているので柔軟な対応がとれないのだ。

 あれこれ工夫してとりあえず2台のクレーンのフックを上下させる仕掛けを作る、クレーンの支柱の最上部、本物なら当然滑車にかかっているはずのワイヤーをただ単に滑らしているだけなので動きが悪い、出来れば注目して欲しくない仕掛けである、まあ観客の目は後ろの石像に集まっているとは思うが。

 このシークエンスが終わるといよいよ石像はスチロール製の置物から復活して中村、権藤、椰野の演じるウエットスーツに移る。

 復活した巨人たちは石像の間のクレーン、パイプ足場等をぶちこわしTPCの隊員達に襲いかかる、このときの壊しの仕込みが操演部のお仕事だ。

 中村君が最初に壊す手すりにホコリ玉を、次に壊す足場に火花を、ジャンプした権藤君の着地地点にホコリ玉を、なぎ倒すクレーンに火花を、2人が前進しつつ蹂躙する足場に火花を、と細かい火薬を何カ所も入れる。

 さて火薬のスイッチであるが1人で2人の動きは追いきれない、またウエットスーツのアクションはスピーディである上に今回はピンポイントの「あたり」であるためシビアなタイミングが要求される(怪獣は着ぐるみが重いので動きが遅いし、たとえばビルの左端に手が掛かったときにビルの右端が吹き飛んでも衝撃で壊れたように見えなくはない)そこで中村君の手すりのホコリと足場の火花で一人、クレーンで1人、権藤君の着地のホコリで一人、前の足場で一人と細かく担当を分け操演部4人でスイッチを握る。

 動きはだいたい決めたものの壊し物が一杯でまともなテストが出来ないので(ちゃんと動くということはみな壊れてしまうということだ)一発勝負である、役者も操演も臨機応変の対応が求められるカットである、がさすが1発OKが出る、だてに3年やってないということか。

 18時終了、特撮初日としては軽くてウォーミングアップには最適なシーンであったと思う。

 8日(金)

 9時開始、昨日の続き。

 先の3人が壁を壊したり、石柱を投げたり、隊員をつまみあげたりという大暴れのカットを引き続き撮る。

 壁を壊して穴を開けるカットでホコリ玉、石柱を持ち上げるときトラスを壊して火花とか前日と同じようなカットが続く。

 18時終了。

 9日(土)

 9時開始、昨日の続き。

 15時頃終了して12stに移動、明日から始まる「闇の神殿」の準備に入る、この「闇の神殿」はティガの出現から始まって最後の戦い(ウルトラシリーズに限らず特撮・アクション物には「この怪獣/怪人をやっつけたら話は終わり」という最後の格闘が必ずある、これは「ラストの立ち回り」と言う意味で「ラスタチ」と呼ばれる)までもが行われる今回の特撮のメインイベントである。

 ここは地底という設定でホリゾントにははるか遠景という思い入れの岩壁が描いてあったりする、いつもの照明いつものバランスというわけにはいかないので照明部、撮影部は苦労するであろう、操演部は別段変わった準備がいるわけでもないので早々に準備終了して帰ってしまう。

 16時終了。

-闇の神殿- 10/10~13

 10日(日)

 8時開始。

 空抜け(人物の背景が空のみであるということ)のティガを日活のオープンで撮影。

 これは横浜ビジネスパークの切り返し(カメラが180度反転して今まで撮っていたのとは逆の方向を撮ること)である、今日はビジネスパーク駐車場で撮った「風船を持った女の子」の切り返しになる、このときのカメラはクレーンに乗りウルトラマンの目線で女の子を見下ろしていたため切り返しの絵は極端なあおりの絵になる、そんなあおりはスタジオでは撮れないためオープンでの撮影になっている。

 特撮映画の場合片側本編、片側特撮の切り返しになることが多い、たいていの場合本編が先に撮られるのだがそれは本編の方が制約が多いからだ、ロケーションの場合はある程度「撮りたい絵より撮れる場所」が優先になってしまうのはやむを得ない。

 「こんな感じのビルの前にこんなぐあいに歩道橋があって、合成されるウルトラマンと歩道橋の上の役者がちょうどうまくおさまるアングルにカメラが入れて、もちろん道路、ビルとも撮影許可が下りる場所で、出来れば役者が逆光になるといいなあ」なんて無理難題をいつも監督、カメラマンは言っているわけでロケ場所をさがす(見つけたら交渉する)制作部は大変である。

 全て希望どおりのロケ場所が見つかることはマレでなにかしら妥協しつつ撮影されるのが普通だ、そういう状況であるからカメラアングルや照明の方向などがあらかじめ決定されていたらどうにもならない、比べて全て一から構築していく特撮はいろいろな面で自由度が高い、従って合成や切り返しは通常本編が先に撮影し特撮はそれにあわせていくのである。

 とはいえ別の日に切り返しを撮るとなった場合で、それがオープン撮影以外ないとなると天候が問題になる、同じ日に同じ場所で切り返しを撮るならまず問題はないが、日を改めてしまえば天気は運まかせである、昨年は悲惨であった。

 昨年の「ティガ&ダイナ&ガイア」では秋晴れというにはあまりにも日差しが強く、暑く、夏を思わせるような一日にあるシーンの本編を撮影したのはいいのだけれど、切り返しの特撮オープンは朝から雲低くたれ込め、普通なら当然中止にすべきところがもう日活オープンの押さえもあとがなく(オープンもスケジュールが詰まっており決まった日には次の組に明け渡さなければならない)どうしても撮らねばならないがせめてもう少し回復するのを期待しようと天気待ちを兼ね「早メシ」にしたところが雨が降り始め(!)あわてて準備開始したものの準備完了のころには本降りになっていて、それでも撮った(!!)、と言うことがあった。

 今回ビジネスパークでは空の入っている絵を撮っておらずその点では直接比較されることがないとは言え街が破壊され炎上し、その黒煙が空を覆っているという設定なのでピーカンではあまり嬉しくないと思っていたのだがこれが見事な秋晴れである、天気待ちが出来るほど余裕のある撮影ではもちろんなく、黒、白スモークを流して撮っていくしかない。

 というわけで操演部のお仕事はスモーク流し、日曜日なので車で出かけたら首都高が事故で渋滞しえらく遅れてしまった、優秀な助手のおかげでなにごともなく撮影は進んでいたが思い起こせばビジネスパークでもこの日は電車を間違えて遅刻したっけ。

 10時オープン終了、12stに入る。

 12stは今日から「闇の神殿」、長谷川君と椰野のウエットスーツ同士の立ち回りである。
 
 なぜ長谷川君は君づけで椰野素子は呼び捨てなのかといえば、自分でもよくわからないがたぶんAAC所属の椰野は長いつきあいで半分身内という気分があるせいだろう。
 (AACとは雨宮組、樋口組、円谷、つまり「未来忍者」「ゼイラム」「ゼイラム2」「タオの月」「鉄甲機ミカヅキ」「ガメラ2」「ガメラ3」「映画版ティガ」と私がやってきた作品のほとんどで一緒になっておりファミリーという気がするのだ)

 今日予定されているのは立ち回り16カット、午前中は撮影にならない事を考えればTV並かそれ以上のペースを要求されていることになる、しかしTVと違い大画面に投影されて鑑賞される映画はそれなりのディティールが要求されるし、「お金を出して足を運んで観てもらう」作品であるとなれば「やっぱり映画は違うよね」とお客さまに思っていただかなくてはならないと思えばこれはけっこうきついペースである。

 さいわいにも怪獣と違いウエットスーツは動きがよく、役者の疲れも少なく(怪獣の着ぐるみは重いので1カット動いたらOKでもNGでも一度脱がせて休ませる必要がある)「今のもう一回」というくらいならそのままいけることが多くてペースはあがる、今日のところはホコリ、FOG以外の操演要素がほとんどなく椰野に弾着をつけるカットが2つあるだけなのも良い。

 9時終了。

11日(月)

 9時開始。

 昨日の続き、椰野演ずる女ウルトラマン(?)はラスボスに吸収されてしまった、ラスボスはフルCGなので長谷川君の独壇場である。

ところでこのラスボスは異常にでかい、とにかく「このモンスターが映っているときは背景はすべてこのモンスターになります」というくらいでかい、そちら側の空間をモンスターがすべて埋め尽くしているということだ、そのためモンスター側からみた長谷川君はセット撮影になるがその切り返しは全てCGバックということになる、モンスターと入れ込みの長谷川君は全てGB撮影だ。

 この時点でこのモンスターはCGはおろかモデリングさえ完成していない、この状況では長谷川君はもとより、監督、カメラマン、スタッフ一同はCG班が作成した絵コンテだけをたよりに撮影するしかない、きわめて挑戦的な仕事といってよいだろう。

 ここでの操演的ハイライトはモンスターの打つ「氷の槍」の当たりである、「氷の槍」はCGだが弾着は火薬で作る、どんなCGが出来てくるのか想像もつかないがともかく氷が当たってはじけた感じを作らなくてはならない。

 当初この爆発をドライアイス爆弾(ドライアイスに火薬を仕込んで破壊すると白い固まりが煙の尾を引いて飛びカッコ良い)でいこうというアイデアがあった。

 この場合25Kgの固まりを吹っ飛ばすくらいが一番見栄えがよい、しかし破片は十数メートル四方に飛び散るためウルトラマンとのスケールがあわない(そもそもそばでやったらあぶないし、高さが10メートルもないセットでは撮影出来ない)

 するとオープンのナイターで撮影し縮尺して合成するしかなくなる、もともとモンスター向けはCGバックになるのでウルトラマン、爆発ともに合成の予定であったが、こうなるとその逆向け、セットで1発撮り出来るはずのカットまで合成が必要になり、1カット仕上げるのに「セットで背景のみを撮影、GBでウルトラマンを撮影、オープンで爆発素材を撮影して合成」というきわめて面倒な作業になってしまう。

 後処理の負担が増えるのも問題だが現場的にいってもこういう「いくら撮っても終わらない」カットはなるべく作りたくないのだ。

 というわけでドライアイス爆弾の線は消えた、打ち合わせの時点では特段のアイデアも出ず、結局「氷の槍が爆発した様で、爆発の規模がウルトラマンと対比して程良く、素材撮りにも対応出来、安全で、かつラスボスの最終武器らしい迫力のある爆発」をどうするかは私に一任、ということで終わっていた。

 打ち合わせ期間中あれこれと検討しているときは「懸案」として皆が認識していることも、「誰かに一任」となった時点でそれは「解決済み」として処理されてしまう。
 
 「懸案」は製作期間中常に山のようにあるわけでまかせられる人間にまかせたらおしまい、というのは当然なのだがゲタをあずけられた人間の責任は重大である。

 しかもこの組の場合村石監督も大岡カメラマンも他のパートに対してまず念押しをしたりチェックをしたりすることがない、やりたいことを言ったあとはこちらが本番で提出するまで待ち、提出したものはたいてい黙って撮ってくれる、信用されているのだとは思うが(前にも言ったとおり大岡氏とは「ウルトラマン80」以来20年、村石監督とは「サイバーコップ」以来で10年からのつきあいがある)プレッシャーはかかる。

 私としてはドライアイス爆弾がだめになった時点で腹案はあった、「G3」で使った「珪砂爆発」である。

 ガメラとイリスがもつれあいながら京都駅構内を横断していくカットで足下の「雰囲気」をどうしようか? ということがあった、何かを壊しているのかホコリをかきたてているのか暴れている怪獣の足下には「雰囲気」が必須である(ないとスケール感、重量感が出ない)

 普通はセメント等の「ホコリ」なのだがここは雨あがりなのでそれも変だろうということになった、そこで雨粒表現用に用意してあった珪砂を筒に入れ撃ってみたところなかなか具合がいい。

 白いので夜目にも鮮やかだしホコリと違ってすぐ下に落ちるところも良い、人の背丈ほど上がるのでスケールもぴったりである「じゃあそれって何?(水ハネが数十メートルも飛んでいるのか?)」と言われると困るのだが、映画的に使える絵である。

 水でOKなら氷もOKだろうということで今回自分的にはこれしかないと決めてあった、あとは本番を待つばかりだが見せて、もし「これちょっと違うね~」と言われたらあとは無いのでえらく困ることになる。

 というわけで本番、シーン上最初の当たりカットはCGバックになるので2回目の当たりからである。
 
 すでに倒れている長谷川君のまわりに角皿を3つ置き、5分玉を入れて珪砂を盛る、角皿の手前にはフラッシュ球を2つずつ置く、ドーンと珪砂が跳ね上がったところを根本からフラッシュで照らそうというもくろみである。
 五分玉、フラッシュ、フラッシュと1ヶ所につき3回路、それが3組で9回路の爆発となる。

 5倍のハイスピード撮影なので、完成された絵を想像しながら爆発をイメージする、珪砂がドーンといって0.2秒ほどの間が空き、フラッシュが2つ0.1秒ほどの間隔で発光する、これが一組である。

 第1組と第2組のあいだは0.8秒くらい、第2組と第3組の間は0.4秒くらいでいきたいと思う、一組の内部のタイミングは同じで、組の間の時間は微調整したいわけなのだ。
 これを5倍速で行うとすると「珪砂-フラッシュ間 0.04秒 フラッシュ-フラッシュ間 0.05秒 第1-第2組間 0.16秒 第2-第3組間 0.08秒」という事になる、これをシャミセンで引くのは無理だ。

 火薬の電気点火器具である「シャミセン」は三味線ではなく鉄琴に似ている、鉄琴で並んだ鉄板の上で桴(ばち)をすべらすようにシャミセンは並んだターミナルを次々と接触させていくものだ、百分の一秒単位で手をとめたり動かしたり出来るものではない。

 そこで「シャミー2000」の登場である、「G3」のファーストカットで使用していらい全然出番のなかったデジタルシャミセンのいまこそ出番である、シャミー2000のタイマーリレーの最小計測単位は千分の一秒なのでこれくらいは楽勝である。

 一度爆発させるとあたり一面珪砂で白くなり、地面のかざりを戻すのが大変なのは明らかなのでぶっつけ本番である。
 
 「よーい、ハイ!」 ドン(ピカピカ)、ドン(ピカピカ)、ドン(ピカピカ)、珪砂がキレイに舞い上がり、ブルーのフィルターのついたフラッシュがそれを一瞬照らし計算どおりの効果である。
 計算どおりなのだがあまりにキレイすぎて迫力にかけるきらいもある、反応はどうか? と思っていると監督以下からなかなかいいんじゃない、と声がかかる、一安心である、いくつかある肩の荷が1つおりたという気分だ。

 22時終了。

 12日(火)

 9時開始、昨日の続き。

 昨日と同じ珪砂爆発を俯瞰で撮る、爆発のみを撮るなどの他、ふっとぶ長谷川君を吊りと後ろひっぱりで飛ばすなどTVでもよくある操演事をやる。

 これはもはやルーティンワークを化している作業であって、「次、うしろ引っ張りでいくね」と声をかければベテランの我が助手連は段取りを説明しなくとも、黙って得物を持って散り、大久保君は吊りベルトを長谷川君に付け始め、辻川は滑車を持ってセット上部に上がり、青木はピアノ線を繰り出し始めるので、私は技師のお仕事、カメラアングルの確認と吊り点の決定に専念出来る、近来まれに見る楽な仕事の進めかたと言えるだろう。

 18時までに予定のカットは全て終了、闇の神殿は終わりである、ラスタチなわりには楽勝のペースのようだがそれもそのはず、モンスター側の切り返しはGBバックですべて残っているのだ。

 13日(水)

 撮休。

-崩壊する闇の神殿-


 14日(木)

 9時開始、今日から3日「崩壊する闇の神殿」の撮影になる、こういう映画の(ってどういう映画のことかと言えば、つまりは「古代の遺跡で主人公が過去の遺物と戦う」といった感じの映画のことだが)最後にふさわしく遺跡は崩壊し2度と人の目に触れることはないであろうという余韻を残しつつ、舞台から消えていくのである。

 このタイプの映画はといえば「マッケンナの黄金」とか「ハムナプトラ」とか「地底旅行」とか「天空の城ラピュタ」とかが思い出される、5秒くらいしか考えなくともこれだけ出てくるのだからきっと数え上げればきりがないだろう、その中にはよく考えてみると崩壊する必然性がないものまであったりするが、これはもう秘境の宿命(?)ともいうべきもので、ともかく崩れて、壊れて、登場人物を脅かして、最後の見せ場を作る常道なのである。

 まずはレナの操縦するGW1号が崩壊する遺跡の中を飛んでいるシーンの撮影、GW機はCGなので合成のバックグラウンドである。

 ここは遺跡をバックにしたガラ落としが主体である、カメラはFIXであり何ということもない、柱を倒す(下をGW機がくぐり抜ける予定)カットを含めて数カットを定時までに撮影、18時終了。

 15日(金)

 9時開始、崩壊する遺跡の続き、今日はダイゴをさがすレナの見た目(GW機からの主観)1カットのみである。

 カメラはスカイキングという大きなカメラクレーンに乗っており、アームの「振り」で左旋回してセット中央に回り込む、スカイキングはセット脇に敷かれた移動車に乗っておりカメラがセット中央の「大通り」に正対したところでアームの振りを止め移動を始める、つまりGW機が旋回して遺跡上空に侵入し大通りの上で直線飛行に移った、という思い入れである。

 カメラは直線軌道に入ると高度を落とし、大通りの「寄り」になる、ステージがさほど大きくないのでこのときにはもうその先の飾りがなく、前進するとすぐにバレが出てカットになってしまう、しかしそれではあまりにも短く面白みに欠けるのである試みがなされた。

 それは最後のアップになったときの大通りの飾りをそのままそーっとセットの手前に移動してその先を付け足し、次の直線移動のカットの頭とオーバーラップでつないで1カットに見せようというわけだ。

 実際には次の直線移動のカットの終わりをもういちど手前にもってきて、直線を2度つなぎ、さらにもう一度クレーンカットを行う、最後を再びクレーンの左振りにすることで大通りを直進していたGW機が突き当たりで左旋回し遺跡から離脱するというイメージになるのである。
 つまり「シーン181、カット1」は4カット分撮って1カットになるのだ。

 もちろん遺跡を崩壊させるのは操演部の役目である、エジプト風であったりギリシャ風であったりインカ帝国風であったりする古代遺跡はほとんど発泡スチロールで出来ている、そしてその中のいくつかは崩壊用としてニクロム線で縦横に切り離されているのだ、立体パズルといって良い。

 そのままだとすぐ崩壊してしまうので普段は串を刺して止めてあるのだが、その串を抜き、一度バラバラにして間にセメントや珪砂をまぶし再び組み上げる、今さら説明の必要もないだろうがセメントや珪砂は建物が崩れたときのホコリや瓦礫である、崩れ方を考えつつピアノ線をしかるべきところに結びつけて一丁あがり。
 こういう建物を何軒か仕込み、カメラのモニターを見ながらどのタイミングでピアノ線を引っ張るか決定する。

 カメラは浮遊感を出すため手持ちになっているし、振りと移動の組み合わせは(特に振りを止めてから移動するというのは)クレーンカットの中では難度が高く、このカットが一発で決まるとは思えないのだが、操演部が操作する物に不可逆的に壊れてしまうものは何も無いのでお気楽である、「もう一回」ということになってイヤなのは、崩壊した建物を再び組み上げるのが(パズルみたいなので)面倒だということだけだ。

 テストではちっともうまく行かなかったものがしかし本番では1発OKとなった。

 となれば次の直線移動である、直線はクレーンでなくワイヤー親線を使う、台車からザイルを垂らし、鉄骨とコンパネで作ったパネルを吊ってカメラマンとカメラを乗せ、空中を飛ばすのである。

 移動車に乗ったクレーンでも同じようなことは出来るのだが、クレーンだとアーム側に高い建物を置けないし、せっかくワイヤー親線が張ってあるんだし、ということで急に使うことになったものである(ワイヤー親線はこの先「地底湖」でティガの飛びにのみ使う予定だったものだ)

 ワイヤー親線はレバーブロックという装置(自動車修理工場などで輪になったチェーンをガラガラと引いてエンジンなどの重いものを持ち上げる機械を見たことがあると思う、あれがチェーンブロックだ、レバーブロックはチェーンの代わりにレバーが付いている、このレバーを軽く往復させるだけでフックの付いたチェーンを強く巻き取ることが出来るのだ)を使って張るのだが、実際にどれだけ強く張れるかはワイヤーを固定した場所の強度による。
 普通はステージの主要構造物である柱や梁に固定するのだが、この日活12stではいい場所にそういった頑丈なものがないため、木製の通路に固定してある、レバーブロックの引っ張り加減は「セットがきしむまで」(!)というのが操演部の了解なのだが、ここではその限界が遙かに低くなっている(使っているレバーブロックは1.5トン仕様のものでその気になればステージを破壊するまで引ける筈だ)そのためいつもより-たとえばTVシリーズをやっていた東宝ビルト5番ステージより-引っ張り加減が甘い。

 するとどうなるかというとワイヤーがたるむのである、台車が両端近くにあるときはまるで一本の鉄の棒のようにも見えるワイヤーも台車が中央にくると下がってきてしまうのだ、下がり具合はワイヤー中央に人が一人ぶら下がって1尺くらいである。

 もともとティガを吊るだけの予定だったのでそのくらいならいいや、と思っていたのだがカメラマン台にカメラマンとカメラ、カメラ用バッテリーなどをぶら下げると重量は倍ほどになり、倍ほども下がってしまう。

 これはギリギリである、なぜなら直線移動の最初の部分は前のクレーンカットにオーバーラップするため、カメラはクレーンの時と同じ高さでなくてはならない、この高さが2尺だ、ということはいちばん低いところではセットすれすれになってしまう、実際には背の高い飾りもあるから接触必至なのだがどうしようもない、フレーム外で飾りをけちらしながら進むことになる、カメラマン台は重いだけにスチロール製の尖塔などを倒しても影響はないのだが。

 このカットでももちろん遺跡の崩しはある、目に見えている遺跡が崩れるだけでなくもっと上空も(というのは、ここは地下の大空洞なので)崩れている風にするため通称「炉端焼き」(棒の先に板がついていて瓦礫やホコリを遠くに落とす)を使ってフレーム外からも瓦礫を落とす。

 これを2カット分撮影したところで夕食になる。

 夕食後は最後のクレーンカット、アームを振らずに移動してきたクレーンの行き足を止め、アームを振ってセットからカメラが抜けていく、同じようなことの4回目でもあり飾りも仕込みも早く1時間後には本番となった。

 20時終了。

 16日(金)

 9時開始、再びワイヤー親線を使っての直線移動だが今日は進む方向を逆にしてセット奧から手前への後退移動になる。

 あとで手前向きのGW機が画面中央に合成されるとカメラがGWと一緒に飛んでいる客観映像になるのである。

 昨日の主観と比べるとカメラの俯角が浅く絵が広い、そのため最後はセット全体が見渡せるようになる、ということは最後は誰もセットの中に居られないということである。

 しかし遺跡崩し要員や瓦礫崩し要員はセットの中に居ざるを得ない、ということはカメラに入らない様に逃げなくてはならないということだ。

 私はうっかり画面奧の建物を担当してしまったのだが、カメラが後退してくるのを待ち、受け持ちの建物が画面に入ったと思ったらピアノ線を引き、効果を確認する暇もあればこそピアノ線を投げ捨ててセット手前に向かって走り、最後はジャンプしてセットから飛び降りる羽目になってしまった(ホリゾントを照らすためステージ奧にはライトが置かれておりこれを隠すため特撮セットは2尺ほど高くなっているのだ)そのくらいでないと出演してしまうのである、あぶないので着地地点にはアクション用のマットが敷いてあるくらいだ。

 これをいくつか撮って17時撮影終了。


17日(日)

 9時開始、第8ステージで「闇の神殿ミニセット」の撮影。

 地中にある闇の神殿は広大な面積を持つ一つの都市である、いままで12ステージで撮影していたのはその一角ということだ、この地中都市の側面に開いた開口部からダイゴやイルマ隊長が闇の神殿全景を見下ろすシーンがあるのだがこの見た目(客観)を撮るため「小さなミニチュア」ミニセットを撮影する。

 身長1.8メートルの役者が40メートルのウルトラマンを演じている特撮セットは24分の1だ、そのセットをさらに数分の1に縮めたセットなので縮尺は100分の1くらいにあたる(実際には遠景になるとさらにミニチュアを小さく作って距離感を強調するパースセットなので縮尺率は一定でない)

 もっともこれでも「全景」というにはほど遠いサイズなのであとはマット絵画家の手に渡りさらなる遠景と奧の壁の立ち上がりが描き加えられることになる。

 操演部的にはFOG焚きくらいなので、私はナイターオープンの「石像の間大爆発」の準備をする。
 これはイルマ隊長がTPCの「高性能爆薬」を使って石像の間にあるモンスターの出口を爆破するというもので今回最大の爆発だ。

 「派手な爆発は映画の華」だと私は思っているし監督からは特にここはナパームでいってくれと注文も受けているので、せいぜいど派手な爆発をお見せしようと思っているのだが石像の間は間口2間奥行き3間ほどの比較的狭い空間だ、おまけに左右、奧の壁のほか天井までもあり「ど派手」なナパームの火炎は全て手前の開口部に噴き出すことになる。
 セット手前に並ぶはずの3台のカメラ(寄り、引き、ハイスピード)が危険にさらされるわけだ、でかけりゃでかいほどいいとは言ってられないので仕掛ける数、位置、火薬とガソリンの量をじっくりと考慮する。

 午後3時にミニセットは撮影終了、全員オープンに移動する、石像の間の飾りはすでに美術部によって完了しておりあとはカメラが座ってから手直しをするだけだ。

 私はカメラを待たずに火薬の位置決めにはいる、普通こういうやり方はしないのだがこのセットに何発ものナパームを仕込もうと思ったら仕込み方は限られてくる、ビニール袋に入ったガソリンが広くもないセットに6発も置かれるのだ、お互いに引火しないように置くだけで精一杯だ。

 それにその狭いセットを3台のカメラがとらえる以上、特に狙って仕込まなくともいいところの一つや二つは必ずフレームに入るはずである。

 監督は打ち合わせの時に「ナパーム」で「派手に」と言っただけで現場では何の注文も出さない、火薬の数さえ聞かない、私は「つながり」のマグネシウム(10/10の日記参照)をナパームとセットで仕込むつもりでいるのだが、こういった味付けは自分の義務と責任と権利の範疇であると思うので特に報告もしない。

 大岡氏もまたここに関していっさいお任せなのはもちろんフレームを決定するまえに意見も聞いてくれるので「もっと引いてフレームは上にしたほうが炎の形がかっこいいですよ」などと提案することが出来る。
 昔むかしはカメラは神聖なものであり、フレーミングはカメラマンの秘術だったらしい(下っ端がファインダーを覗こうとするとパン棒でひっぱたかれたなどと聞く)がもちろん馬鹿げている、人の意見を聞く余裕のなさ、つまりは自信のなさを公言しているようなものだ。
 先に発火したガソリンで後のガソリンが誘爆しないよう仕込むのも気を使うが、先の爆発によってコードが焼けてショートし後の分が不発しないようにコードの取り回しにも頭を使う。
 ナパームは6発だがマグネシウムがそれぞれ1発ずつ付くので合計12発、12回路となる。

 特機部と製作部は消火の段取りにいそがしく撮影部と美術部はカメラの防御に大わらわである、私が炎がなめるくらいのことは覚悟してカメラを防御せよと言ったので平台、コンパネを組み合わせて作った電話ボックスのような小部屋が3軒立っている。

 5時くらいになるとあたりはうす暗くなり、ライティングされたセットは天空の影響をほとんど受けなくなって本番はいつでも可能という状況になった。
 
 各部準備OKとなったところでテストを行う、テストといっても芝居があるわけでなし、カメラワークがあるわけでもないので、かけ声の決定とカメラスタートのタイミング、爆発のタイミングテストである。

 通常日本では監督が「よーい」というと撮影助手がカメラのスイッチを入れ、次の「スタート」の声で助監督がカチンコを鳴らす、全てのアクションはそれから行なわれる。

 アメリカでは「キャメラ」でスイッチが入れられ、カメラが回っているのを確認して撮影助手が「ローリング」と返事をする、そこでカチンコが入り、監督の「アクション」の声で事が起こる(金子修介組はアメリカ方式だという)

 アメリカ方式は「カメラが回っていない」「カチンコが画面に入らなかった」などの間違いが無いがアクションが始まる前にフィルムがブンブン回ってしまう、それでは無駄が多いというので日本では現行方式になったのだと思う、しかし特撮では、特に一発必中の爆発カットなどでは「カメラ回っていませんでした」では済まないので一連のシークエンスを一時変更する事がある、この場合いつものやり方ではないのでかけ声だけでも練習する必要があるのだ。

 相談の結果以下のような段取りになった、まず監督が「カメラ」と声をかける、Aキャメ、Bキャメの助手はローリングを確認して順に「ハイ」と声を出す、ハイスピードカメラの助手は回転速度が上がったのを確認して「小屋」から飛び出し安全圏まで駆け戻る(これは一番セットに近くて危険なのでカメラマンも居ない無人カメラである)安全圏まで戻ったことを私が目視で確認して爆発のスイッチを入れる。
 という具合である、監督はスタート時は「カメラ」以外発声しないし、カチンコも鳴らない。

 基本的には監督の「カット」の声がかかるまでは消火に入らないが、真にヤバイことが起こったと思ったら誰でも自分の判断で消火なりなんなりの行動を起こして可である、などということも取り決める。

 これを一度テストでやってみる、監督が「カメラ」と言う、撮影助手が「ういいい~ん」などとカメラの回転音を口マネして「ハイ」の声を出す、ハイスピードカメラの助手も適当な時間を見計らったのち全速力で逃げ出す、私は今だ!と思った所で「だだだだ~~ん」などと叫ぶ。

 口マネなど馬鹿げているし恥ずかしいと思うのか新人などで声を出さないとか口ごもったりする奴がいる、しかしこのテストは他のスタッフにたいして自分はやることがちゃんとわかっています、というアピールとして必要なことで、イメージトレーニングとしても有効なのである。
 だから声が小さかったりすると「でかい声をだせ!やり直し!」などとどやされることになる、これはどのパートでも同じである。

 というわけでいよいよ本番、目新しいことは特にやってないしカメラはもうガチガチに防御されているので意外と気は楽である、しかし監督の「カメラ」の声がかかり、ハイスピードカメラの回転音がだんだん高音部に移行していくといつもながら視界がクリヤになり、思考の分解能(?)が上がったような気分になっていく、多分アドレナリン分泌しまくりなのだろう。

 ダダダダ~~ンと一気にシャミセンを引く、石像の間はでふくれあがった火炎は次の瞬間猛烈な勢いで手前に吹き出してくる、セットの開口部一杯の劫火だ、カメラはどうか? 火は近いがギリギリの所で上に逃げている、まずカメラも助手連も問題あるまい、狙いどおりの爆発だ、と思ったとたん一気に緊張が解ける、炎上するセットを遠目に弛緩する、たぶんハタからみるとこのとき私はへらへらしているのだと思うがもちろん誰もこっちを見てはいない、皆監督の「カット」の声で消火に走ろうと身構えているからだ。

 「カット」で消火開始、アイドリングしていたエンジンポンプが全開になりノズルを握っていた制作部と特機部の二人が放水を始める、しかしこれはまたもの凄い炎である、石像の間が岩壁、石柱共にスチロールで出来ていてこれ以上はありませんというような可燃物の固まりであるところへガソリンを気化させて発火させているのだから当然である、炭酸ガス消火隊はあまりの熱気に近づけず、給水タンクの水はみるみる無くなっていく、いっこうに火勢は弱まらない、緊迫すべきシーンであるはずだが私は感覚遮断状態でよそ事のような気分だ。

 最悪消火しきれなくともここは駐車場の真ん中で近くに引火物もなく、盛大なキャンプファイヤーになるだけなので気分は楽である、などと思っているうち火も下火になりはじめ、やがて鎮火した、水びたしのセットから回収すべきものを持ち出し操演部はとっとと撤収にかかる。
 時刻は6時を回っており制作部はお食事はこちらです、などと叫んでいる、消防士をやったかと思うと食事の手配をせねばならない製作部も大変である。

 夕食はケータリングで業者による出張調理である、しかしその内容をみるとこれは何だ「焼き鳥弁当?」白いご飯の上に焼き鳥が3本乗っているだけであとは豚汁、ケータリングで暖かいとはいえちょっと情けなくないかこれは?

 「タダのメシよりうまいメシ」は私のポリシーだが今回の助手は全員この趣旨に賛同してくれている、撤収の手を止めて食事にする他のパートを尻目に我々は荷物をまとめてさっさと引き上げる、今日はこれで終了なので家ででも外食でも好きなものを喰いたいわけだ。

 こういう団体行動に添わないパートがあると弁当が余って製作部も大変である(よく弁当持って帰ってくださいよ~、と泣いて頼まれるのだが電車通勤の私は持って帰れないし、そもそも早く帰りたいから弁当を食わないのではなく、弁当を食いたくないから食わないのだ)

 駐車場の出口で消防車とすれ違った、届けは出していたはずだが通報があったりすると念のため来たりするのだ、こういう時の応対は製作部の仕事である、なまじ実行者がその場にいて何か聞かれ、答えたことが届けと違っていたりすると面倒なのでさっさと逃げ出す(製作部も「担当者はもう帰ってしまって技術的な詳しいことはわかりませんが、申請通りだと思いますよ」と言うほうが簡単なわけだ)飯なんぞ喰っていなくて良かった。

 飯の心配のあとは消防局にも対応しなければならない製作部も大変である。

19時終了。
 
 公開が間近に迫り、全体像もすこしづつ明らかになってきた今日この頃いままでのように無理して固有名詞を隠す必要は無くなってきたと思われる、そこでこれからは名詞を書いていこうと思う。

 ただし始めにも書いたとおり、予備知識ぬきで映画を観たいと思う方はこれからは特に閲覧禁止だ(まあそういう人がこれを読んでいるとは思えないのだけれど)

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 というわけで今日は「神殿内天井ミニセット」の撮影。

 「闇の神殿」は地下都市であるため天井がある、ラスト近くそれをアートデッセイがぶち抜いて侵入してくるわけだがその周辺のカットの撮影だ。
 
 始めは穴から降下してくるアートデッセイ、スケールが違いすぎるのでアートデッセイは合成されるのだがその背景(下絵「したえ」と呼ばれる)となるべき画を撮影する。

 スチロール製の2間×3間ほどの湾曲した天井セットを8番ステージに吊って撮影する、始めのカットは何事も起こっていないので操演部の出番はない。

 次が脱出していくアートデッセイの下絵でこれはドンパチやったあとなのであたりに煙が立ちこめている、それが開いた穴から外に吸い出されているという設定だ、穴の上にジェットファンを吊り下げ煙を吸い上げるように仕掛ける、次に黒スモークを6本棒の先に取り付け6人で天井セットの周辺から穴に向かって流し込む、ジェットファンが穴に接していれば絶対うまくいく筈の仕掛けなのだが穴から空を見せる必要があるためそういう位置にファンを置けず風の流れができにくいためあれこれと工夫する。

 ライティングも苦労しているようだ、基本的に煙というものは逆光(物の背後から光が当たっている状態、前から光があたっているのは順光)にしないとディティールが出ず面白くない、順光で見る日中の入道雲より逆光の夕焼け雲のほうが陰影に富んで面白いというのは誰しも思い当たる実例だと思う。

 ところがこの「天井」はボールの底のような形状のものをのぞき込んでいるわけで、逆光をあてる位置(逆目という)にライトが入れないのだ。

 結局、一発撮り(一回で撮る「この場合、天井と煙を同時に撮る」という意味)の他に煙のみを黒バックで撮っておこうということになった、あとで煙の無い背景に合成にするかもしれないということだ、困った時の合成だのみである。
 こうして合成カットは現場でどんどん増えていく、打ち合わせで合成担当者がどんなに防波堤を築いてもこういうカットが生ずるのは防ぎようがない、そしてどんなにカットが増えても、撮影が遅れても公開が決まっている以上デッドラインは動かない、かくして撮影が進むにつれて合成マンの眉間のしわが増えていくことになる。
 (しかし一発撮りであれば煙は撮れたとうりのものでしかないが合成ならその濃さを自由に変えられる、今一つ不安の残るカットにおいて選択の余地を残したい監督やカメラマンがそういう手を打っておくのは当然である)

 ということで黒バックで煙の別撮りということになった、別撮りとはいえ煙の動きは背景たる天井に沿っていなければならないわけでそのため天井を艶消しの黒で塗ってしまうことになった。
 「もういいですね?、撮り残しなんてないですね? 黒く塗ってからもう一度なんて言っても元には戻せませんからね」としつこいほど念を押したあげく、美術部が天井セットを黒く塗り始める。
(念を押したい気持ちはわかるがいくらダメですよと言ったところで「悪いわるいどうしても必要なカットがあったんだ」と言われりゃ元に戻さないわけにはいかないのだが)

 塗料の乾き待ちをしていると、「風工房」の石黒氏が「回転縛帯」を持ってセットに現われた、そこでこの場は助手達にまかせて2人で12番ステージに移動する。

 「回転縛帯」とは吊った人間を縦に回転させるための吊りベルトである、なぜそのようなベルトが必要になったかといえばそれは監督がコンテに「ティガダーク、足で壁を蹴って飛行ポーズ(水泳のターンの要領)」と書いたことによる。

 地底湖の格闘でダーラムに投げ飛ばされたダークは背中から壁にぶち当たり下に落ちる、しかし次のカットですかさず水平に飛び出し再びダーラムに迫る、というシチュエーションだ。
 この飛び出しをスピーディにかっこよく描きたいということだろう、監督の意を受けた絵コンテマン橋爪氏は縮めた足を壁に着け今にも飛びださんとしてるダークの姿を描いている、まさしく水泳のクイックターンの最終ポーズだ、しかしもちろんクイックターンとは状況が違う、どうやってそのポーズに至るのか、そして(ここが肝心だが)どうやったらそのカットが撮れるのかは説明されていない。

 監督に聞いても「くるっと回って水平にさっと飛び出したいんだよ」と言うのみで具体的にどうやりたいのかという説明はなかった、イメージが固まっていないのかあるいは事が事だけに(「やりたいことと出来ることは違う」というわけで)出来る方法でよいからなんか考えてくれ、とゲタを預けたつもりでいるのかどっちかである、なんにしてもイメージと方法論ともに私が考えなくてはいけないことだけはわかった。

 まずは絵面(えづら、イメージ・画面構成とかいう意味である)から考えてみる、前のカットでダークは左からフレームインし右奧の壁に背中を打ち付けて足から下に落ちる、(勝ち誇るダーラムが1カット入る) このカットはふたたびダークに切り返したところから始まるわけだからダークは最初壁を背に左向きで立っている、そしてカットの終わりで体を水平にし壁を蹴って画面左にフレームアウトするのである。

 水平というのは言い方を変えれば下向きで、立っている形から考えれば90度前倒しということだがその場で体を前に倒すだけではかっこ悪い、ここはハデにバク転(うしろ宙返り)すべきだろう、普通のバク転は360度回転して再び地面に足を着くわけだがこの場合270度で回転をやめれば体は水平になり足元に壁がくることになる。

 しかしいかにすればそのまま前進出来るだろう、いやそれ以前にどうやって270度で回転を止めるのか、そして壁を足で「蹴る」からには足が縮んだ状態で壁に接地しなければならないのだがどうやってそれを行うのか問題は山積みである。

 さて「困った時には向きを変えて見る」のは特撮の基本である、また「一番重要な動きは重力にまかせる」のは操演の基本である、この場合水平に飛び出してフレームアウトするのが一番大きな動きである、これを正直に撮ろうとするとワイヤー親線にダークを水平吊りして横に引っ張ることになる、しかし水平吊りは胸、太股で吊る必要がありどのようなベルトを着けていようと回転することは出来ない、ここがネックならばこれを簡略化すればよい、つまりカメラを横倒しにして水平方向を上下に変えてしまえばよいのだ。

 実際はこうである、カメラを右に90度倒してセットを見る、とセットの床が右の壁になる、そこに立っているダークは壁に足を付けて水平に浮いている構図となる、そこでダークが足を縮め上にジャンプすればキックターンの最後のように壁を蹴って真横に飛び出したように見える、そのまま上に吊り上げればダークは水平のままフレームアウトする、これなら横吊りのための面倒な4点吊りでなく2点でいける、そして2点吊りなら回転縛帯を使っての回転も可能なのだ、前段の問題も一気に解決である。

 ということはまずセットから垂直に立ち上がった「地面」を画面左に用意する、セットの床には壁のディティールを作り込む、ダークは重量バランスをやや足重(あしおも)にした回転縛帯を装着し左の「地面」を向いて吊りあげられる。

 1メートルほど浮いたところでダークを補助して後ろに90度寝かす、上向きになったダークの足を「地面」に接地させる、足がかり(?)がなにもないと下に落ちてしまうのでこの垂直になった「地面」には足を引っかける場所を作っておく、かかとをそこに乗せて姿勢をホールドするわけだ。

 これを右に横倒しになったカメラから見ると「壁に背を向け、地面に足を付けて立ち前方を見るダーク」という絵になる、そこから長谷川君が「地面」を蹴って後ろにひっくり返る、足重であるから頂点を越えれば重力にまかせるだけで回転は継続し足は下、つまりセット床に作られた「壁」を向く、ここですかさずザイルをゆるめれば、長谷川君は「壁」に足を縮めて接地する。

 長谷川君のジャンプの芝居に合わせてザイルを引けばそのまま上昇してフレームアウトする、カメラから見れば地面に対して水平のまま左にアウトするように見えるわけである。

 これで完成である、カメラを90度傾けるだけで頭の痛い問題が全て解決した、問題はただ一つ「ウルトラマンが装着出来るような回転縛帯がない」ということだ。

 通常の吊りベルトは人を垂直に吊るためのもので基本的には股に回したベルトで体重を受けている、体重が逆にかかることは想定されていないので逆さにするとすっぽ抜けてしまう、回転のためには肩当ての付いた特殊な縛帯が必要になる、ピアノ線を結ぶ金具も特別なものだ、回転に従って金具も回ってくれないとピアノ線がよじれて切れてしまうのだ。

 こういうものの製作はノウハウが必要である、日本ではもちろん縛帯などというものは市販されておらず、操演各社ともそれぞれ工夫を凝らして自社開発しているのだが映画の都ハリウッドには吊りベルトを市販する専門業者がある、回転縛帯も売っているのだ、こういうものは専門業者ものを使うに限る、・・・限るのだが、今回の用途には使えない、実はこの縛帯TVシリーズの殺陣師二家本氏がアメリカで買ってきたものを持っており、ガイアで一度使っているのだ、ただ当初ガイアに装着して使う予定だったもののウエットスーツの下に付けてみると縛帯があまりにもごついためウルトラマンの華麗なシルエットがガタガタになってしまいやむを得ず断念して、せっかくなので怪獣に付けて使用しているのだ(?)

 16ミリで撮影されTVの小さな画面で見ることを想定しても使用に耐えずと判断されたものはさすがに35ミリで大画面に投影される劇場映画には使えないだろう。

 どうしよう、と言ってもこれは自作するしかないのは明らかである、参考までに二家本氏所有の縛帯を見せてもらうことにした、私は話を聞いただけでどのように「使えない」のか実際には知らないのだ。

 というわけで借りてきたのが2週間ほど前、特撮がクランクインする直前だったと思う、着てみるとたしかにごつい、が体にフィットしてはいる、問題なのは縛帯のあちこちに付いている予備の吊り点なのだ、この縛帯メインの用途は回転なのだがそれ以外にもいろいろ使えるように背中や腰、太股に頑丈なベルトで作った輪が付いている、基本的に(回転金具以外は)全て布製なのでこの上に普通の衣装を着る分にはシルエットが気になることはないだろう、気になるのはウエットスーツのウルトラマンだけである(!)

 余談だがこの回転縛帯がどんなものかは映画で確認することが出来る、「ミッション・インポッシブル」でトム・クルーズ演ずる主人公が床にタッチセンサーの付いた部屋に忍びこむシーンがある、トム・クルーズは2本のワイヤーで吊られ天井から侵入するのだがこのとき装着しているのがアメリカ AMSPEC 社の Jerk Suits 101 (355$)そのものである。回転金具 Swivel 01 (265$) もしっかりと確認できる、ここでは水平に吊られているだけだが実際に回転している絵は「マトリックス」の地下鉄ホームの立ち回りでキアヌ・リーブスが線路からバク転してホームにもどるカットで使われている。

 よってこれをパクることにした、市販品のほうが安くて良いに決まっているのだが使えないんだから仕方ない、製作は「風工房」の石黒氏にお願いすることにした、石黒氏はもともと革細工屋さんで一時「特殊美術GAM」という映画関係の作り物屋に所属し(ビデオ版「ウルトラセブン」や雨宮慶太作品の美術をやっているのがGAMだ)今またフリーに戻って「風工房」という一種の何でも屋を開業している人だ、亀甲船が忙しい時には応援にも来てもらっている、革細工をやるので業務用のごついミシンがあり(そしてここが肝心だが)特撮の現場を知っているので吊りベルトがどんな風に使われるか知っている為吊りベルトを作ってもらうには最適な人間なのである。

 石黒氏には構造と材質をオリジナルに似せ余分な吊り点をいっさい作らない縛帯を作ってくれと発注した、回転金具は亀甲船にあった。

 何故金具だけがあったかを説明するといささか長くなる、雨宮作品や「G3」のアクションを担当しているAACはアメリカでパワーレンジャーのアクションもやっている、「G3」で私の助手をしてくれた半田君はもとAACの人なのだが春先このパワーレンジャーに出てくる怪獣(怪人?)を作る仕事を引き受け、亀甲船の口利きで近所に部屋を借りてこれを製作した、この納品に吉田・ゼイラム/レギオン・瑞穂君や亀甲船の上田がくっついてロサンゼルスに物見遊山に出かけたのだ、スタジオツアーなどおのぼりさんらしいことを一通りやったあとさすがに特撮関係者の集団なのでハリウッド御用達の特殊効果用品店や AMSPEC に行き上田はそこで回転金具を買って帰ってきたというわけである。

 その時はこんなことになると思っていなかったのだがこれは助かった、回転金具は材質、加工共に容易にコピー出来るものではないし(万一壊れれば役者の命にかかわる)取り寄せるといってもどのくらい時間がかかるかわからないからだ。





 というわけで、その回転縛帯が今日やっと出来てきたのであった、回転金具などは石黒氏によってすでに取り付けられていたが、パッド(金具が腰にあたって痛くないための)がまだであったため取り付けているうち8スタが終了したらしくうちの助手が戻ってきた、そこで自分で試してみることにする。

 回転してみたり、水平吊りになってみたりしたがこれが素晴らしい着心地である、全身がすき間無くホールドされ吊りあげられてもどこか1ヶ所に体重がかかって痛いということがない、回転しても同様で不安がない、さすが専門業者(のデザイン盗用)である。

 しかしやってみてわかったことは、相当足重にしておかないと足が地面に向かない、(回り安いだけに回転が足りなかったり、回り過ぎたりする)そしてつり上げた時にフラフラしてしまうということだ、しかし足重にしてしまうと上向き状態から自力で回転を始めるのが難しい、人に足を持ってもらって勢いを付けないと回転出来ないのだ、地面に足を着けて立っている絵をあきらめ、地面側をフレームで切ってもらい人力補助方式でいくか足にピアノ線を付けて上向きにひっぱり回転だけ補助しようか、などど考えているところへ監督・大岡氏も戻ってきたので人に補助してもらったバージョンを披露して意見を求める。
 
 大岡氏は手前で地面を見切って(手前になにかを置いてバックの一部を隠すこと、この場合は岩か何かで奧の地面を見えなくする)補助の人間を隠そうと言う、まあそれならダークの足先こそ見えないが「フレームから足先だけが切れている」というみっともない絵にはならずに済むしなんにしても補助付きのほうが確実なのでそれで行こうと思う。

 明日から今回の映画のもう一つの見せ場「地底湖」の戦いである、美術、照明は準備に余念がないが操演部はさっさと帰ることにする。

 17時終了。


10月19日 (火曜)

9時開始、12番ステージ。

 今日から地底湖の撮影に入る、今回の映画は闇の神殿、地底湖、闇の異空間と立ち回りが3ケ所に分かれている、それぞれ地上戦、水中戦、空中戦という振り分けだ、これは昨年の「ティガ&ダイナ&ガイア」でダイナが海中で、ティガが宇宙で、ガイアが地上でそれぞれ怪獣と戦ったのと同じ構成になっている、何故そうなっているのかといえばそれは脚本家が同じだからである、といっては身もフタもないわけでなぜ長谷川氏がそうしているかと言えば、それは格闘にバリエーションを付けるためである。

 TVシリーズの場合、20分少々しかない番組の2~3分しかない特撮部分であればそう長く格闘をやっているわけにもいかず立ち回り先をあれこれ変更する余裕はない。
 (そのかわりシリーズ全体を通じてバリエーションをつける必要があり、一年を通して見ると都市、田舎、山中、砂漠などの地上戦があり、空、宇宙などの空中戦があり、海中、地下の戦いがあったりする、更には平成シリーズの特徴として異世界、異次元の戦いがファンタジー色濃く扱われることがある一方かつてはあった人体内部の戦いが無くなっている)
 これらのバリエーションはすべて格闘を飽きさせないための工夫である、映画の場合は全体のバランスからいって、「ラスタチ」が始まったとみるやあっという間に決着が付くというわけにはいかないので、観客へのサービスを含め舞台を変え目先を変えた格闘をせざるを得ないのだ。

 もっとも今回はもともとがルルイエという古代遺跡の内部の話で、地底湖といっても空中戦といっても現実の空間であると言うには無理がありどちらも異空間風(?)となっている、また闇の神殿そのものも地下都市という閉鎖空間であるため一様に重苦しく、昨年のように夕焼けが美しい地上戦、星空バックの宇宙戦、深い青の海中戦というほど気持ち良い切換が出来ないのが実状である。

 さてその地底湖の戦いであるが実は3つの戦いのシーンのうちで一番撮影期間が長い、これは闇の神殿の最終ボスがフルCGであること、闇の異空間はグリーンバックでの吊りが別にあることによるものだがそれは後処理班の手になる部分が多いということであり、つまりはこの地底湖は撮りっきりの生身のアクションが重要で現場的には一番大変だということだ。

 撮影開始早々いきなり遺跡壊しとなる、地底湖の湖底には古代の神殿が廃墟となって沈んでいるのだが、ティガダークがダーラムに投げられ、この遺跡にたたきつけられるのだ。
 壊し用の石膏製遺跡は全部で3つあり、たてつづけに2つばかり壊す、ビルディング等だと電気のショートやあるいはなにか破裂するものがあった(?)という思い入れでにぎやかしの火薬を仕込むところなのだが、古代にうち捨てられた遺跡とあってはそういうわけにもいかず、切り込みを入れるのとホコリをまぶすだけにする。
 
 切り込みもいろいろTVシリーズで研究した結果、弱めすぎるとウエハースでできた建物がつぶれるようで面白くないので最小限にとどめる、俳優さんには痛くて気の毒だが一度建物に当たって勢いがそがれるくらい抵抗があるとリアルで迫力があるのだ(こうした「研究」が出来るのがTVシリーズのいいところである、ダメでも「次は頑張るから許してね」が通るのだ、間違いやミスの許されない映画やCMではいきおい安全策を取らざるを得ずあらたなチャレンジがしにくい)

 いつもはタイミングのある火薬が入ってそれなりの緊張感がある操演部だが今回は切り込みを入れたあとは壊しもホコリも自前(?)なのでお気楽である、たるんでいる操演部の傍らではダーク役の長谷川君が落下位置の確認に余念がない。

 3尺のイントレから背面であるいは前転で石膏に向かって落ちる、1カットは単独で、1カットは中村ダーラムが1本背負いで投げる、ただし1本背負いといっても中村君は自力で飛び込む長谷川君に手を添えているだけで、飛び出しの高さや方向はすべて長谷川君が決定しているのだ。

 テストとして一度建物をセットしTVモニターにデルマ(何にでもかける色鉛筆)で輪郭をマークする、そののち建物をはずしてマットを敷き飛び込んでみるのだが接触したあと建物がどう壊れるかは予想がつかない(予想はいつもつけるがそのとうりに事は運ばないとも言う)崩れた瓦礫に乗った体がどう捻れるかは見当もつかないわけだ、しかし映画である以上「いいところ」に体が来て、なおかつヒーローであるからには「顔」が見えなくては話にならない。

 (余談だが、いかなる名演技でも熱演でも「いいところ」に来なくては意味がない、というあたりが演劇と映画の大きな違いであると思う、以前演劇出身で売り出し中の若手俳優がとある作品で「半狂乱になって画面手前に迫る」というカットを撮ったとき、何度やってもOKが出ないで悩むということがあった、演技は鬼気迫るものであるのだがどうも役に入り込み過ぎて位置に気を回す余裕がないらしい、頭を下げてカメラに近づき最後に「クワッ」と顔を上げた時に「どアップ」になる予定なのだがカメラはフィックスなので自分で決め位置にこなくていけない、それが決まらないのだ、しまいにはカメラマンに「君、入れ込むのはいいけどカメラ前でやってくんなくちゃ写らないよ」とか言われてしまった。
 これが舞台なら位置が10センチや20センチ、いや1メートル狂ったところで、さしたる問題ではないだろう、迫真の演技こそが求められる全てなのだ、照明だってスポットが追いかけてくれる、ところが映画ではこういう場合1センチの精度が要求される、照明だって決めうちであてているのだ)
 
 この場合建物のそういった不定要素の他にメンタルな問題もある、そもそも本番になると力が入って同じようには飛べないものなのだ(飛びすぎる)というわけで建物につっこんで「グワッ」とか言って苦しんでいるウルトラマンが「いいところ」で芝居しているとすればそれは実は技術と経験と瞬間芸のたまものであるというわけなのだ。

 (今回こそ関係ないが、ビル壊しの場合火薬のスイッチを握っている操演も実はだから瞬間芸だ、まあ「建物つっこみ」が完全にはずれることはないがそれでも一気にペシャッと壊れるか1呼吸あるかで火薬のタイミングは違う、その判断はまさしく瞬間に行わなくてはならない、ついでに言えば殴る蹴るの場合狙いをはずされたり、空振りされたりは日常茶飯事なのだがそれでもなんとかごまかしていく技を身に付けていかなくてはなくてはならないのだ)

 遺跡壊しのあと2.3手あってダークの「飛び」になった、長谷川君を水平吊りにしてワイヤー親線の台車に吊るし、飛んで来てダーラムの腰につかみかかるというカットを撮るのだ。

 実は人入りのウルトラマンをワイヤー親線で飛ばすというのは珍しい事なのだ(私自身は「ウルトラマンストーリー」という映画以来2回目になるのだが、過去のTVシリーズでやっていたろうか?)もちろん平成ウルトラマンでは始めてである、そもそもウルトラマンを人入りで吊るということ自体最近の発想だ、かつては飛びは「飛び人形」でというのがあたり前で、全身が入ると人形、寄りはイントレから体を乗り出して撮る、というのが普通だったのだ。

 それが平成シリーズでは縦吊りやグリーンバックでの横吊り(移動しない)はいつの間にかあたりまえのようにやることになってしまった、これはティガの第6話「セカンド・コンタクト」の回で北浦監督がウルトラマンを吊りたいと言ったのが始まりだ。
 
 私はウエットスーツは吊りベルトの形が見えてかっこ悪いからやだ、と抵抗したのだが監督が是非にというので仕方なく権藤君の全身型をとりFRPの吊り型を作ったのだった、これは吊りベルトと違い権藤君の体にフィットしてるため、ごついベルトで体を締め付ける必要がなく、ベルトや金具(これが一番くせもの)がウエットスーツのシルエットを壊さないで済むからだ。

 しかし始めはそのように気を使ったものの結局次第次第にルーズになりしまいにはデコボコ丸出しのウエットが画面に登場するようになってしまった、あれが出来るんだったらこれもやろう、とかあれをやっていると時間がかかり過ぎるからこれでいいや、などと少しづつ地歩後退してしまったわけだ、ことが致命的でないだけに感覚が麻痺してしまうわけだ。
 これはデジタル技術の弊害であるともいえる、つまりかつてのようにピアノ線を塗って消す(目立たなくする)以外ない時代では1.2ミリほどもある人吊りのピアノ線はよほど条件が良くなくては消すことが出来ず、消すにしても相当程度の時間を要するため、いきおい人吊りはやめようということになっていたものが、今や「後処理班よろしく」ということでピアノ線を気にしないですむようになったのだ。

 ならばウエットのデコボコも消してくれればいいと思うのだがなかなかそうはなっていかない、吊るのが面倒だから言うのではないが(あるが)それなりのフォローをして使うか、使わないか、(あるいは引きの絵のみに限るか)という使いわけが必要であろうと思う。

(「マトリックス」でネオとエージェントがピストルを撃ちながら空中でつかみ合い、カメラが回り込むカットがあるがこれをメイキングで見ると2人のズボンが吊り点で持ち上がってテント状になっている、完成画面ではそうなっていないから後処理で直しているわけだ、横吊りの際の足の吊り点は頭の痛い事の一つである、ズボンであれば少々のごまかしがきくがウエットでは1センチ浮いても気になる、我々は数々の思考錯誤の結果いっさい突っ張りの出ない太股ベルトを開発した、これがマトリックスで使われていれば後処理無しでOKという代物である、しかしそれでもウエットスーツでは太股に何か巻き付いているのがバレてしまうのだ、ウルトラマンの端正なシルエットを守りたければ後処理なしでは吊るのはやめたほうがいいと思う)
 
 横吊り&移動の場合は親線台車からピアノ線でじかに吊ることになり、いつものように下からザイルで吊り上げて高さ調整するわけにはいかない、そのため長谷川君を最初から台の上に寝かせてピアノ線を結び本番前に台をどかして体を浮かすことになる。

 カメラ吊りの時にも言ったとおり親線台車はセット中央で沈みこむためどの地点でダーラムに接触するか決め、そこで長谷川君と同じくらいの体重の人間がぶらさがってどの程度沈み込むか測り、ピアノ線の長さを決めていく。

 最初は奥からダーラムに迫るダーク、セッティングには時間がかかったがあまり不確定要素のない仕事であり、本番は一発で決まった。
 ついでダーラムの腰にタックルするダークの寄り、ここでダーラムはティガの腕を取る。

 次が大業、ダーラムのジャイアントスイング(ぐるぐる回して放り投げる)である、ウルトラシリーズで中村君のジャイアントスイングは数多くあったがそれは怪獣相手でありたいてい中身は入っていなかった、木を人型に組んだ通称「芯木君」が中に入っていたのである、怪獣の場合はおおむね着ぐるみが体型を保ってくれるのでそれでよかったのだ、ところが今回はウエットスーツである、芯木を入れれば芯木の形が見えてしまう、ここはどうでも長谷川君本人に入ってもらうしか無いのだ。

 ちょうど横吊りになっているので長谷川君にはしばらく我慢してもらって(ウエットを着たまましてもらって)ピアノ線を台車からはずし、ザイルにつなぎかえる、4本の線を一点にまとめた1本吊りである、中村君はその吊り点の真下に立ち自力で回してもらうのだ。

 このあたりになると3年の蓄積のある役者と助手連が率先して話を進めてくれるので私の出番がない、実のところ今回のメインスタッフはティガの立ち上がりとダイナの立ち上がり、および別班(アートデッセイ発進とか)しかやっていない、私もティガは途中で抜け、ダイナは始めの4話しかやっていないのだ、しかし俳優部とうちの助手は3年間ウルトラ漬けでジャイアントスイングはもうくさるほどやっている、立ち位置はここでスタートがここ、今回は人入りで重いから俺が最初補助するね、などとどんどん話が進んでいくのだ。

 うまくいくとも限らない(?)のでぶっつけ本番になる、うちの大久保君が最初の一押しを手伝うと中村君はあっさりダークを振り回し始めた、一番始めにティガでこれをやったとき中身抜きの怪獣であるにも関わらず全然回転を始められなかったのと比べると隔世の感がある。

 3回転でカメラ前に投げるのだが、回転を始めると中村君には方向がわからない、そこで殺陣師が大声で回転を数え、手を離すタイミングを指示する「1回・・2回・・3回・・1、2の、離せ!」えいっ! とぶん投げる、投げ飛ばされるダーク、「カット」の声でさっと這いつくばるダーラム(投げ飛ばされたダークはブランコして戻ってくる、よけないと怪我をしかねないのだが、視界のせまい着ぐるみでは位置を変えるのは難しい、その場に這いつくばったほうが安全なのだ)そんな一連の動作も完成されている、中村君はそのままごそごそと支点の真下から移動し、かわりに大久保君が舞台にあがって、ブランコしていったりきたりしている長谷川君を抱き止める、3年間の成果というべきだろう、この面倒でもあり難しくもあり、場合によっては危険でもあるカットは一発OKとなった。

 21時終了。

10月20日

9時開始

 遺跡に激突するダーク及び今回の見せ場「ウルトラマンのキックターン」はセッティングが大変わりするので後回しになり、そのあとのカットへ進む。

 まずはダークを投げ飛ばしたあとあざ笑うダーラムを撮る(これは簡単である)
 次に「ダークをかわすダーラム」を撮る、これはキックターンしたあと低空飛行でダーラムに迫るダークの主観映像だ、またまたカメラを親線に吊ってダーラムに迫る、ギリギリのところで中村君がかわす、「すっぴん」なら何ということもないカットだが視界の悪い面をかぶっていると危ないアクションである、タイミングを見誤って激突すれば中村君はカメラ台にはじき飛ばされ、カメラマンは地面に落下するだろう。

 次は体をかわし通過するダークの背を叩く(叩き落とす)ダーラム、これは長谷川君が移動車に乗り身を乗り出して撮る、下半身をフレームに入れられない為カメラアングルの窮屈な仕掛けである。
 これは親線の吊りで行こうという説もあったのだがそれだと中村君が長谷川君を吊っているピアノ線のあいだに腕を入れなくてはならず(胸の線が通過したところで腕を振りおろして背を叩き、足の線が通過する前に抜く)それはタイミングが難しいだろうということでこうなったものだ。

 次が叩き落とされたダークが湖底に激突するカット、勢いよく斜めに落ちてくるということでブランコにする、長谷川君を水平吊りにしておき足を持って後ろに引き上げ、手を離して落ちてくる所を撮る、最下点を過ぎたらカットだ、本当に激突させるわけにはいかないのでセットから1尺ほど浮いた所を通過するようにして飾りとカメラアングルで湖底に当たったように見せかける。
 激突した雰囲気を出すため接地した(ように見える)地面にホコリ出しを仕込む。

 テストしないと飾りの方針が立たず、テストするともうピアノ線付きになってしまうので長谷川君は準備の間中現場におかれたマットの上で寝たきりである。

 「そろそろいきます」の声で面をかぶりなおしジッパーを締め、マットをはずして毛布の上に寝なおす(毛布も本番の時にははずすのだがマットは移動に時間がかかるからだ)本番の声で目とカラータイマーの電飾が入れられ、ザイルが引かれて長谷川君は所定の位置まで浮く、後ろに引かれて3尺イントレの上で待つ大久保君に渡される、大久保君が足を持ってホールドする、「よーい、ハイ」カチン! で手放す、ブランコして落ちてくるダーク、最下点で私がエアーの弁を開ける、巻きあがるホコリ、でカット、「止め男」がすぐ飛び出す、今回はブランコしている長谷川君のすぐそばに飾りやカメラがあるのですぐ止めてあげないと振れがずれていって激突するおそれがあるのだ。

 ホコリがちょっと遅くない? と大岡氏が言う、皆でモニターのリプレイを見る、うん少し遅いかもね、誰だ、俺だ俺、そーだよ俺が悪いのさ、というわけで2回やってOK。
 次のカットはその後、派手にホコリを巻き上げながら湖底を滑っていくダーク、どれほど派手なホコリかというとそのあと視界が悪くなってダーラムがダークを見失い、奇襲をかけられてしまうというほどに派手なホコリである。

 このカットのためにダークを乗せるキャスター台を作ってあった、幅30センチ長さ1メートル、裏に小さなキャスターが4つ付いている板だ、自動車修理工場で工員さんが自動車の下にもぐりこむのに使う台に似ている、工員さんは上向きに乗るがダークは下向きだ、体の下に台があるのがバレてはいけないので前の角が体に合わせて丸く切り落とされているのと、胸から飛び出しているカラータイマーを壊さないようにその部分もくりぬかれている所が違う。

 この台の回りにエアー用のナイロンホースを止め、熱した釘で下向きの穴を一杯開ける。

 カメラ位置が決まったところで滑ってくるコースを決定し、コース中央にガイドの6ミリワイヤーを張る、キャスター台の前端と後端にはこのワイヤーを通す金具がついているのだ。
 コース上にホコリ用のセメントを撒き、細ザイルを付け、手始めに助監督を乗せて引いてみる、エアーを吹きながら走るとなかなかいい感じである、実のところいい感じ以上にホコリが出過ぎたのだが、本番ではもすこし断続的に出そうという見当がついたということで真っ白になってしまった助監督の犠牲も無駄ではなかったと言えるだろう。

 台が見えないギリギリのラインで美術部が飾りをする、準備よく手際よくこれは一発OKとなった、テストの結果を踏まえたホコリもちょうどいい案配である、俺だよ俺。

 ここから約10カット格闘になる、操演部はFOG焚きとホコリ撒きのみなので私は助手にまかせ操演ベースに待避する、操演ベースというのはセット入り口付近に作った作業スペースである、6尺×3尺の平台(セットの床を構成する頑丈なパネル)を6枚下に敷いてあるので6畳ほどの広さになるだろうか、ここに平台を組み合わせた机と棚が作られている。
 これは普通はオープンなものだが今回はこのシークエンスでセット中ホコリだらけになることがわかっていたため屋根(?)が作られている、四隅に柱を立て透明ビニールをかぶせてあるのだ、ビニールは床まで垂れ下がっているので屋根というよりはカバーかもしれない、入り口も2重に重ね合わせている、なにしろ食事をするのも休息するのもこのスペースなのでホコリを厳重に遮断しているのだ。

 ビニール越しにセメントまみれで仕事をするみなさんを見物するうちに夕食となった。 
 夕食後はダークが穴にはまるカット、ダーラムに駆け寄ろうとすると地面が陥没して下半身が埋まってしまうというカットだ、これは美術部が遥か以前から頭を悩ませていたカットである、単純な落とし穴だと一緒に落ちた砂が下に落ちてダークの体と穴の間にすき間が出来てしまう、すき間があったのでは埋まったように見えない、埋まって体の自由が利かないように見えないとそのあとダーラムに一方的にやられるカットにつながらないというわけだ、出来れば大きなあり地獄に踏み込んだように見えたいわけだ。

 そこで美術部はセットの平台を1枚抜き、そこに3尺四方ほどの箱を埋めた、セットの床面はもともと3尺ほどの高さにあるので3尺×3尺×3尺の空間である、そこにちぎったウレタンを詰め2尺丸ほどの穴が開いたフタをする、上からドンゴロス(荒い麻布)をかぶせ砂をまく、という仕掛けである。

 とりあえずテストをしてみる、がうまくない、監督のイメージだと一気にズボッと沈む感じであるのだが、この仕掛けだとズブズブとしか沈んでいかない、ウレタンはダークの体の回りを常に埋めておくための工夫なのだが抵抗がありすぎるのだ。

 それじゃあというのでウレタンを取り去ってみるともちろん一気に落ち込むもののこれはやはり下が空っぽなのがバレバレである、一気に落ちるということと落ちたあとは埋まっているということは同時に成立しないのではないかという意見が出される、監督は落ち込む部分は見切って(手前で隠して)ごまかそうかと言うが大岡氏、これは落ち込むところを見せないと意味がない、と強く主張し結局「後回し」ということになる、あれこれやっていたおかげで時刻はすでに10時を回っており、本日はこれまでということになった。

10月21日

 9時開始.

朝セットに入ってみると美術部が昨夜の「落とし穴」をセットしているところだった、後回しにしようということになっていたはずなのだがあれから半徹夜して研究し今朝の一番手に間に合うように準備していたのだと言う、う~~む。

 結局仕掛けとしては、ダークの胴回りギリギリのサイズの穴を開けておく、スチロールの板で穴をふさいでおく、落ち込んだら操演部の仕掛けで穴の中からホコリを出して胴まわりのすき間をごまかす、ということになった。

 美術部の努力が実って、これは即OKとなった、つぎに腰まで埋まっているダークにダーラムがジャンプして蹴りを入れ、首まで埋めてしまうカット。
 中村君をダークの埋まっている所から3メートルほど離れたところで縦吊りにする、ピアノ線を結んでいるカラビナに細ひもを付けておく、中村君をジャンプ動作にあわせて吊り上げ、上げながら細ひもを引いてダークに向かって引き寄せる、ザイルをゆるめてダークの肩に着地、蹴りの動作でふたたびつり上げ、上げながら細ひもをゆるめると元居たところに戻る、という一連の動作である。

 引き手、ひっぱり手、中村君の芝居と3者の息が揃わないとうまくいかないアクションだがテストの一発目から成功したのにはびっくりした、特にメインのザイルの引き手は操演部だけではとうてい足りない(中村君は重い)ので他のパートのから数人手を借りているのだ、このスタッフの練度の高さとカンの良さをものがたると言えるだろう。

 これを3パターンやり、首まで埋まったダークを撮り、次がダーラムの「地走り攻撃」である。

 ダーラムがダークから距離をとり、地面(湖底?)に拳を突き立てると土煙と火柱が走ってダークに迫るというカットである、これはビデオ版ウルトラセブンで「走る土煙」というのをやったばかりなのでその方法を採る予定であった、地面に皿をおいて5分玉を入れ砂を飛ばすのである、言ってみればテスト済みなので私としては楽観していたのだが・・・

 セブンの時は土だけだったが今度は火柱も、ということなので皿のそばにマグネシウムを置き、飛ばした砂の根本を赤く照らす作戦である、テストもなにもないのでセッティングを終えたら中村君の芝居だけ確認して即本番である、ポーズをとるダーラム、突き出す拳、ダダダダダ~ンと土煙が走る!

 目で見てかっこいい、と思ったのだがモニタービデオのリプレイを見るとマグネシウムのハレーションで画面が真っ白になり何も見えない、マグネシウムは発火した時の光が直接レンズに入らない位置に置いてあったのだが、照らした砂の照り返しが多すぎてハレーションを起こしているのだ、問題はフィルムでもこうなっているかどうかである、ビデオは光量オーバーにはきわめて弱いのでモニターで真っ白になってしまっていてもフィルムではそうなっていないことは多い。

 一瞬のこととて露出を測れず撮影部にも判断がつかない、経験充分なここの撮影部はたいていの火薬ならデーターを持っているのだが、こうしためったにやらない(というか始めてやるというか)火薬効果でこうなってしまうと見当がつかないらしいのだ


この手の撮影に馴れているここの撮影部であれば他の火薬であればたいてい見当がつくのだが(いままで多くの爆発を経験しデータも一杯持っているので)こういっためったにやらない火薬効果ではわからない、結局ビデオでは見えなくとも結構写っているもんだよね、ということでOKとなったのだが・・・

 劇場で見た方はご存じのとおりこれがやはりハレーション入りまくりでよく見えていない、残念。

 次に爆発に包まれるダークの寄り、同じような火薬を首だけ出して埋まっているダークの回りに5つばかり置く、危険なので長谷川君は入っておらず助監督が穴下に入って首だけを動かす、これは寄りなのでマグネシウムを押さえたためそれなりに写っているはずである。

 次が「爆発が晴れると立ってるトルネード」というカットである、ダーラムの必殺武器をくらったダークは逆にダーラムの力を取り込み「赤」の色を取り戻している、ということになる。

 カメラは移動クレーンに乗る、立っているトルネードの前で爆発つながりのセメントを飛ばす、セメントの煙でトルネードが見えなくなったところでカメラは地面低く移動して近づく、煙を抜け人影(ウルトラマン影?)に近づくとそれがダークではなくトルネードであることがわかるという仕掛けである。

 まずはテストということでセメントをドカンと飛ばす、もうもうたる煙、カメラはそれを突き抜けてトルネードに近づく、見えない、まだ見えない、カメラクレーンアップしてトルネードの顔に寄る、やっと見えた。

 これじゃダメである、顔はダークのままなのでこれだとトルネードに変化したことがわからない、おまけにセメントの粉がレンズについてボケボケになっている、そこでジェットファンを用意してトルネードまわりの煙を吹き飛ばすことにする、カメラのレンズには高圧空気を吹き付けて粉の付着を防ぐ仕掛けをする。

 ふたたびテスト、ドカン、見えなくなるトルネード、カメラ移動、煙の中につっこんだところでジェットファンをトルネードにあてセメントを吹き飛ばす、今度は比較的早く見え始める、カメラクレーンアップしてトルネードの寄り、これでいけるかと思いきや何とトルネードの頭やら肩やら目の上やらにセメントの粉が一杯積もっている、そういうものだと言えばそういうものだが、ここは「爆発のダメージをまったく受けず、それどころかいっそうのパワーアップを果たしてかっこよく立っている」というカットであるのでみすぼらしくセメントまみれになっているのはまずいのだ、おまけにセメントが乗った目はシルエットが変わって眠そうな感じになっており全然まずい。

 エアでホコリを飛ばしてしまえということになり、高圧エアをもう一本引きカメラがホコリを抜けてくる前にトルネードに積もったセメントを払うことにする、3たびテスト、しかし舞い上がったセメントはカット中ずーっとトルネードに降り注いでいるわけで、最後にはやはりうっすらと積もってしまう。

 カット後半の、上から降ってくるセメントをなんとかしなければならない、どうしようかと話していたら照明部が上に屋根をつけてあげますと言う、照明のディフューズのビニール枠(光を拡散させる道具)を上に吊ってくれるということだ、このシーンは水中なのでライティングは拡散させた光を多く使い、強い影を作っていないのでトルネードのすぐ上(フレームのすぐ外だ)に枠があってもOKなのだそうな。

 屋根が出来たところで4たびテスト、しかしずいぶん改善されたもののそれでもセメントは気になる、屋根によって落下してくるセメントは防げるものの最初の爆発で屋根下に吹きこまれたセメントが付着してしまうのだ、手詰まりになり、ああでもないこうでもないと皆で悩んでいると、誰かから(あれは、誰だったのか)「爆発の時は下向いていればいいじゃない」という意見がでた、そのとうりだ。

 カメラがセメントの雲を通り抜け、ジェットファンがセメントを吹き飛ばすまでトルネードは見えていないのだから、それまでトルネードは下を向いていればいいのだ、そうすれば爆発で飛び散ったセメントの直撃をまぬがれることが出来て最初のセメントの付着を最小限にすることが出来るのだ。

 というわけでトルネードは最初腰をかがめて下を向いている、スタートでホコリ爆発が起こる、トルネードはまだ下を向いている、カメラ前進、ホコリの雲を抜け出る、そこで助監督が「起きた!」と声をだす、正面を向くトルネード、そこからあとの積もりかけるホコリはエアで充分に吹き飛ばせる、ということがわかった、ここでの教訓はやはり頭数がいると良い意見が出るということだろうか。

 というわけで5目でOK、何回もセメント飛ばしをやっおかげで、あたり一面真っ白である、たんびにセメントの雲の下をくぐり抜けてきた大岡さんはまた特に真っ白になっている、特撮稼業というのはどうも長生きできそうにない。

 このあとは芝居ばかりになるので「雰囲気」は助手にまかせ私は爆発人形の仕込みに専念する。
 明日はダーラムの大爆発があるのだがこのスチロール製の爆発人形は身長が1.2メートルもあってやたらとでかい、これは爆発人形を着ぐるみのトルネードと入れ込み(同じフレームにいる)で撮りたいという監督の要請によって作られたもので人間と競演してもバレないギリギリの大きさということでサイズが決定されたものだ、ふつう爆発人形というのは大きくても90センチ止まりなのでこれはそうとうでかいことになる。

 (もちろん、爆発人形が1/1サイズなら何をごまかさずとも着ぐるみと競演可能なので当然1/1での人形製作という話は打ち合わせ時に出ていた、しかし私がそれは拒否した、破裂系火薬には何種類もあるが大小無段階にあるわけではない、爆発人形のサイズと飛び散る破片のサイズの関係でいえば1/1というのは半端なサイズなのだ、帯たすきというやつである、小さい方を使えば破片が飛ばず迫力が無くなるし、大きなものを使えば「あるなし」になりかねない、大きく作ることは常に良いことであるとは限らないのである)

 さてしかし、このでかさのおかげで仕込みにはかなりの時間がかかると予想されたが人形は最終仕上げのために今日中にキャラクターメンテナンスの宮川君に戻さなければならないので急ぐ必要があった。

 爆発人形は宮川君の手によって中がキレイにくりぬかれている、仕込みはまずその内側に厚さ2~3センチほど石膏を塗り、5分玉を置き、5分玉を更に石膏で覆いかぶせていくという作業になる、普通は助手を一人使って石膏をどんどん溶いてもらい、私は玉付けに専念するのだが、今回はそうはいかないので作業時間が倍かかる、正確に言えば、玉付けから石膏溶きに移るときに2人なら必要のないオーバーヘッド(余計な作業-手を洗うとか)がかかるので倍以上遅くなる。

 いつもなら10~20個ですむ5分玉が人形のでかさで30個以上必要になったこともあって、普段なら1~2時間ですむ作業が4時間もかかってしまった。
 撮影は10時過ぎに終了、火薬の仕込みもほぼ同じくらいで終了した、火薬のコードがスパゲッティのように垂れ下がっている爆発人形を宮川君に引き渡す、彼はこれから仕上げにかかるのだろうか?

 22時終了。


10月22日

 9時開始。

 昨日の続き、必殺技が通じなかったことに逆上した(?)ダーラムがトルネードに向かって走って来るカット。
 「足もとからもうもうたる土煙り」という指定だったのだが、フレームを見るとホコリを画面外から送り込むことは出来そうにない。

 ホコリであるセメントを道中にいっぱい撒いておくしかないだろうということになったが、下地である土の湿り気がすぐセメントに移ってしまうのであまり効果は上がらなかった。

 さて走り寄って来るダーラムは途中でトルネードのデラシウム光線の直撃を受けて爆発してしまう、爆発は昨日仕込んだ爆発人形だが、これは硬直しているので走っている絵にそのままつなげると違和感ありまくりになる、そこで「きっかけ」として走って来る中村君本人に火薬を付け大爆発の寸前までの「つなぎ」の絵を撮ることになる、デラシウム光線がダーラムを貫通してその勢いで足が止まり棒立ちになる、という風にして動きのない人形につなげるのだ。

 中村君の胸と背中に火花系の火薬を1発づつ付ける、コードはかかとから出すがこれだとほぼ全身が入っているカットなので走るとコードがバタバタしてバレる怖れがあった、こういう場合「本人スイッチ」といって手の平に小さなスイッチを隠し持ってもらい自分で点火する(バッテリーも本人に付ける)という手があるのだが、今回は前→後と微妙なタイムラグを付けたい(光線が抜けた感じを出すため)という要望であったため外線(ガイセン-外から電力を供給する)にする他はなかった。

 「出来るだけコードを跳ね上げないようにね」などと大岡さんも言っているが実際にはバレたらバレたで「何とかなるだろう」という意識でいるのはあきらかである、裏も表もなく撮ったものが観せるものである時代とは一線を画していると言えるだろう、デジタル編集機様々であると言える。

 さてこの「デジタル様」もデジタルならではの効果を全面的に押し出した使い方から、現場の苦労を後処理班につけ回しする手抜きの方法、さらには「バレ隠し」まで様々である、この場合は同じ「バレ隠し」でも万が一のコードのバレを怖れて窮屈なフレーミングになったり、あるいはタイムラグをあきらめて本人スイッチにする必要を無くするための「押さえ」として機能しているわけで、うっかりミスをあとでフォローするのとは意味が違う。

 デジタルをデジタルらしく使うということに関してはそもそも開発者たちがあれこれと提案してくるであろうから、このようにアナログな現象をより効果的に見せるためのデジタルという使い方はアナログ側から提案していく必要があるだろう(って評論家風に言っててどうするよ、俺)

 というわけでコードを2本引っ張った中村君が位置についた。
 何度かテストをして点火のタイミングについては充分打ち合わせ済みである。
 いよいよ本番、「よ~い、ハイ」 カチン! で中村君が走り出す、10歩目を踏み出した瞬間が点火である、1歩2歩3歩、4、5、6、7、8、・・点火スイッチの上に乗せた指に緊張が走るその瞬間「カーーット!、カット!カット!」という大声がセット中に響き渡った、何が起きたのかわからないまま、動きかけた指をもぎ離すようにスイッチから手をどける、中村君も急ブレーキをかけて止まっている。

 映画屋は「カット」という声に敏感だ、特に監督以外の人間が本番中に「カット」と叫ぶのは緊急事態なので、何はわからなくとも動きを止めようとする、点火スイッチを押さずに済んだのは日頃から養われている反射神経のおかげとしかいいようはない。

 とはいえ何度も言っているとおり火薬のスイッチを押す瞬間はアドレナリン出まくり(多分)で脳が高速回転しているのである、いきなりストップをかけられると、急ブレーキをかけられた車から精神がフロントグラスを突き破って外に転がり出てダメージを負ってしまう、一瞬にして心臓バクバク、冷や汗たらたらである、どこのパートでもそうだろうが特に火薬のスイッチを握った操演部には体によくない(この場合役者である中村君もえらくダメージをこうむっていると考えられる、本番中のカット-監督以外からの-は役者に危険が迫っている場合が多いからだ)

 当然各所から、何だなんだ、誰がカットかけたんだ、と声があがる、とサード助監督が舞台に上がり「ダーラムの目が点いていませんでした」と言った、そういえば、と改めてダーラムを見るとたしかに目を点け忘れている、本番が回ってしまえば「まあいいか」でOKになるようなミスもたまにはあるがこれは絶対にリテイクである、火薬を発火させてしまえばその再セットの手間もさることながら焦げた着ぐるみを修復するのにも時間がとられるわけで、カットの判断は当然であった。
 
 しかしこれだけの人数が注目しているのにエアポケットのように誰も気が付かなかったわけだ、まあ各パートはそれぞれの職分に応じた場所に集中しているので気が付かないとも言えるわけで、この場合はサード助監督が注意していなくてはいけないことであった。
 この場合は最悪気が付かなくても余分に時間かかかるだけだが、1つしかない壊し物を破壊するカットであるとか、取り返しのつかない事態に発展しかねないものであり、単純ミスとはいえまあいいやでは済まされない問題であった、こういう場合は当然直属の上司であるセカンド助監督が注意する(というか叱り飛ばす)のが普通であり、まさにカミナリが落ちんとしたその瞬間、当の本人が「俺です、すみませんでした~~~!」と大音響でよばわった、なんだか謝罪というより「悪いのは当然俺で逃げも隠れもせず、このように反省して謝っているんだから、これ以上何か言いやがったら許さん!」と言わんばかりの脅迫的な謝罪(?)であったが、あまりの迫力に誰もそれ以上は何も言えなくなってしまった。

 「セリフは謝っていて口調は怒っているみたいなあれってつっこみ封じに使えるよね、こんど何かあったらあれでいこう」などと話し合う操演部であったがともあれ仕切り直しである。

 次はOK。

 次は爆発人形である、1.2メートル(3分の2?)サイズというでかいダーラム人形が運び込まれる、どうやら宮川君は徹夜で作業したらしい(どうも準備パートの人たちは徹夜で作業することを厭わない傾向がある、納めてしまえば本番中は休めるからそれでもいいや、ということなのかもしれないが操演部には呑めない方針である、私は「徹夜か大残業すれば出来る」作業は「出来ない」ものに分類することにしている、本番中は休めるたって家に帰れるわけでなし、ふとんで寝られるわけでなし、準備パートだってそこまで滅私奉公する必要があるとは思えないのだ、とスタッフ地位向上委員会-メンバーは私一人だが-は思うのであった)

 この中途半端な大きさは先にも行ったとおり役者との入れ込みを狙うためのものである、セットの端にダーラム爆発人形が、もう一方の端に長谷川君の入ったトルネードが立つ、カメラポジションは3つ、「ダーラム背中ナメのトルネード」、「正面から引き絵のダーラム」、「正面から寄りのダーラム」と3キャメのセッティングになる。

 普通カメラは基本的に1方向からしか撮らないのに対し今回は180度近い「両挟み」の狙いになるのでセット飾りもライティングも時間がかかる、反対に操演部は今回は楽勝である、というのも今回は新機軸で火薬全部一気点火というのを試してみようと思っているからだ、一気だと配線は一本で済むので簡単なのである。

 ところでこの一気点火だが、ウルトラマンの必殺光線を受けて爆発するスチロール人形というのはTVシリーズでくさるほどやっている、映画だからひと味違えようと思ってあれこれ考えたものの、たいていのことはTVで試している(人形がデカすぎては逆効果、というのもその中で培われたノウハウである)とはいえせっかく木戸銭払って足を運んで来てくれた観客にTVと同じ絵では・・・と悩んだ末に思いついたものなのであった。

 TVシリーズを見ている方は(ってTVを見ずして映画を観る人はいないと思うのだが)知ってのとおり、爆発する怪獣はたいてい上から、または手や角の先から順に爆発している、これは点火コードが足もとに逃げているからで逆に足もとや手や角の根本から爆発させると始めの爆発であとの分のコードを切ってしまう危険があるからだ、ガイアで川口謙司が一度逆方向にチャレンジして成功させていたはずだが、なんにしても「順に爆発」させることに関しては全て同じだった、しかしこれは単なる思いこみと呪縛なのだ。

 平成ウルトラシリーズが始まった時、スタッフに過去のウルトラシリーズを経験している人間はほとんどいなかった、各パートの技師クラスだけが「ウルトラマン80」の経験があるくらいだったのだ、それゆえ過去のしがらみにとらわれない新たなウルトラマンが創造されたといえるのだが、全てをゼロから立ち上げるほどの余裕はなかった、というか、新たな旅立ちゆえ企画立案の段階ですったもんだし、おかげでクランクインが遅れに遅れ、結局第1回放映に間にあわせるために現場は大車輪で撮影を進めなければならない状態だったのだ。

 それゆえ始めのうちは作品の多くを「昔はこうやって撮っていた」という経験則で進めざるを得なかった、キチンと一から考え直せば「昔はそうでも今はこうだろう」、となる撮影方法もあるわけで、それらは随時新たなアイデアに置き換えられていったのだが始めにあるフォーマットを見てしまったがゆえに「それはそういうものだ」という思いこみがスタッフを支配し以後返りみられなかった呪縛がいくつか残ってしまっていた、その一つが「爆発人形は順に爆発する」である。

 これは「80」当時私が当時の技師に教えられ、あるいはTVで過去の爆発人形を見て思いこんでしまったテクニックをそのまま提出し、しかも以後考え直すことをしなかった遺産なのだ、私は雨宮組の新作をやるためティガを途中で抜けたのだが私の後を継いだ技師たちも(いろいろな技を編み出しては作品に深みを加えていったわけだがこの事に関しては)手を付けなかった、結局以降もなぜか爆発人形は順にしか爆発していなかったのだ、ここで改めて「映画だから」ということで爆発について考え直したおかげで、「一気」というアイデアが出てきたというわけなのである、既成概念にとらわれることなく、当たり前のようにやってきたことの是非を常に問うという姿勢が改めて求められるということだろう(って、またまた何故に評論家風?)

 というわけで一気に爆発、当たり前ながら一発OK。

 次が19日の続き、「ウルトラマンのキックターン」がらみの2カットである。

 まずはジャイアントスイングで投げられたダークが背中から壁(絶壁?)に激突するカット。
 
 セットに高さ2メートルほどの岩壁を作る、長谷川君のダークをその前で壁を背にして縦吊りにし1尺ほど浮かす、背中を押してフレームアウトさせ3尺イントレの上で待つ大久保君に手渡す(!)
 イチ、ニのサンで離すと長谷川君はブランコして壁に揺れもどり、背中から激突するという寸法である、野蛮な手法なので長谷川君は背中にプロテクターを入れる、美術部は壁が揺れないように補強をガンガン入れている、ウルトラマンが着地した地面や、怪獣がたたきつけられた山がぐらつくのは(よくあるが)興ざめもいいところである。

 壁に激突する前に遺跡の一つも壊していきたいと監督が言うので、長谷川君のブランコのコースに壊し用建物を置く、石膏製のものはもう品切れなので、スチロール製の建物をニクロム線で縦横に切り離した再利用可、立体パズルタイプの教会(?)を壁の前に建てる、多分ふくらはぎあたりにぶち当たって壊して行くだろう。
 このタイプの建物はともするといかにも積み木を積んでおきました風にパラパラっと崩れて迫力のない絵になりかねないのでホコリ出し用に弾着入りセメント袋を建物に仕込む。

 準備はめんどくさいがもとよりNGの出る要素の少ないカットであり、一発OKとなった。

 さてキックターンである、つもりとしては壁に激突した後ダークは壁を背にして立っている、そこでバク転(後ろ宙返り)をして270度回転し、後ろの壁に足を着き、それを蹴って前へ飛んでいくということになる。

 まずは壁をそのまま地面に寝かせる、カメラ側から見ると右が崖上、左が崖下になるようにセッティングしてもらう、長谷川君に回転縛帯をつけ、壁の上で体が上向きの水平になるよう吊る、カメラを90度右倒しにしてそれらを見ると、フレーム右に壁があり、それを背にしてダークが下手を向いて立っているように見える。
 実際には長谷川君は「足重」のバランスで吊っているので、手前のセットの影になっている部分ギリギリのところで大久保君が足を持って支えているのだが。

 そしてこれを「よーい、ハイ」で上向きに放り投げ、長谷川君を後ろ向きに回転させる、270度回転して足が下向き(つまり壁向き)になったところでタイミングを合わせ足が壁に接地するよう吊り降ろす、膝が曲がるまで吊り降ろしたら今度はジャンプのアクション、アクションに合わせてサッと吊り上げてそのまま上にフレームアウトすると、画面上では水平飛びで画面下手にフレームアウトするように見えるという寸法である。

 実際には足を吊り点の真下に接地させないと吊り上げたとき体が前後に揺れてしまうなどの問題が生じる。
 これらは回転スピードを決定する大久保君の足投げの強さ、長谷川君の足を縮めるアクション、引っ張り隊(例によって「お手すき」による混成部隊)のタイミングの組み合わせによっていくらでも齟齬を生むやっかいな問題である、こういう時はえてしてテストが一番良かったりするものなので、いきなり本番でいくことにする、うまくいくかどうかはある程度運任せなのだ。

 いきなり一発OKがでるほど甘くはなかったが、それでもああでもないこうでもないとやっているうち5カットか6カット目にOKが出た、基本となるアイデアの方向がよかったのと準備とテストのおかげで本邦初公開のアクションにしてはかなりうまくいったと言えるだろう。

 本当は足を見切らず、地面入れ込みでちゃんと立っているところを見せたかったのだが(足は手で持たず、ピアノ線で支える)要素を増やして失敗の可能性が高まるのを怖れて今回は手持ちに逃げてしまった、次回(あるのか?)はキチンと全部見せたいと思う。

 22時30分終了、明日は撮休だ。

10月24日 (日)

 9時開始。

 最初にルルイエの遺跡おもて関係。

「冒頭で調査隊がルルイエに上陸するシーン」
「ヒュドラとダーラムが結界を破ろうと遺跡上空へ飛び立つシーン」
「中盤ダイゴが単身ルルイエに乗り込むシーン」
「ゾイガーが遺跡から群れとなって飛び立つシーン」
「GW2号がルルイエに降り立つシーン」

 等の背景となるカットをミニチュアで撮影する、操演的にはすることがないかせいぜいスモーク焚き程度なので、これを助手連のまかせ私は明日から使用するモーションコントロールの準備を行う。

 午後よりルルイエの遺跡おもての崩壊、よくよく考えるとルルイエが崩壊せねばならない理由はなにもないがそこはそれ(?)秘境物のお約束というやつであり、相手が島なら(??)これはもう海にのまれる以外考えられないのである。

 というわけで(???)バタンコを利用した遺跡崩壊カットを撮る、設定は海岸べりということになっているが、手前の海や水しぶきはあとで合成されることになる。
 美術部が仕込んだバタンコの上に立体ジグソータイプの遺跡を組み上げる、もはや言うまでもないことであるがバレを隠しつつ、ホコリをまぶしつつ組む。

 1カットを寄り引き2キャメで撮り、3セット行ったら夜10時30分であった。
 
 10月25日 (月)

 8St.でダイブハンガー格納庫の撮影。

 ダイゴがGW1号に乗り込むシーン
「俯瞰、手前からダイゴ、奥にGW1号」というカットの<奥のGW>。

 「コックピット内のダイゴ」、に合成される<GW1号と格納庫壁面>

 「キャノピー越しのダイゴ」の背景となる<格納庫壁面>

 以上は動きが無いので操演部の出番は無し。

 次の
「GW1号、エンジンノズルよりバーナー吹き出し前進、F.O.(フレームアウト)」
がモーションコントロールとなる。

 いままでも簡単に「モーションコントロール」と書いてきたのだが、いったいにこれがどういうものであるかは説明したことがなかった、そこで一度きちんと書いておこうと思う。

 「モーション・コントロール」とはコンピュータで制御され、同じ動きを何度も繰り返すことの出来る撮影システムの総称である「モーション・コントロール・カメラ」というのが正式な呼び方ではあるが動かすのはカメラだけでなく、被写体も、時にはライティングまでコントロールする。

 「モーション・コントロール」(以後「M・C」と略す)が始めて世にでたのは「スター・ウォーズ」であり当初は特撮監督ジョン・ダイクストラの名を取って「ダイクストラ・フレックス」と呼ばれていた
(「ダイクストラ・フレックス世界初」説には異論もあるようだが今や検証不能、工業技術の発達により出るべくして出た技術だけに同時多発していてもおかしくはない、結局宣伝のうまいやつの勝ちということである)

 さてM・Cのどこが画期的であったのか、「同じ動きを繰り返す」のがなんの役に立つのかを説明するには「合成技術」についても触れなくてはならない。
 当時「合成」といえばこれは「光学合成」以外にはあり得なかった、「光学合成」とはオプチカルプリンターという装置を使って2つ以上の絵を切り合わせ、1つのフィルムに定着させる技術である。

 簡単にそのテクニックをを説明してみると、「(実景の)ビル街の上を(ミニチュアの)GWが飛んでいく」という絵を作るとする、この場合GWの背景である空も特撮スタジオのホリゾントである場合は簡単だ、まずビル街の実景を撮影し、次に特撮セットでGWを撮影する。

 次に実景のポジフィルムを紙に投影してビルの稜線を写し取る、ビルの部分を黒でぬりつぶして撮影する(こういう作業を行う機械を線画台と言う)出来たポジフィルム(ビル部分が真っ黒のフィルム)をメスマスク、このネガ(空の部分が真っ黒のフィルム)をオスマスクと呼ぶ。

 オプチカルプリンターとは映写機とカメラが向かいあっている装置である、映写機にかけたフィルムを相方のカメラで撮影するわけだ、もちろんコマ送りなどは完全に同調するようになっている。

 このオプチカルプリンターの映写機に「実景」と「オスマスク」を重ねてセットする、これをカメラで撮影すると実景のうちビル街の部分はカメラに撮し取られるが、空は黒いマスクが光を遮るので露光しないまま残る(もしこのまま現像すれば空が真っ黒なビル街ができあがるだろう)このフィルムを巻き戻し、今度は映写機に特撮セットで取ったGWとメスマスクを重ねてセットし再び撮影する、こんどはビル街部分がマスクで露光せず、先ほど露光していなかった空部分に特撮の絵が焼き込まれる、現像すれば見事実景のビル街の上を飛ぶGWの出来上がりである。

 こういうビルの稜線などでつなぎあわせているものを「切り合わせ合成」といい、現場では「空ごとハメ替え」などという、マスクはオスメス2枚でよく、単純な合成である。
 しかし、実景の空にGWが飛ぶ場合はどうなるだろうか(これを「実景の空は生かし」であるなどとも言う)

 理屈は同じだ「実景」にGWの形をした「オスマスク」を重ねて撮影しGWの形をした未露光部分を作る、次に特撮の絵に「GW以外全部真っ黒」な「メスマスク」を重ねて撮影してその未露光部分にGWを焼き込めばいいのである、しかしGWが移動していると面倒だ、当然移動に合わせたコマ数分のマスクが必要になる(これを「トラベリングマット」日本では「移動マスク」と言う)、10秒のカットなら240枚づつ480枚必要である、手作業ではやってられない、そこで登場したのがブルーバック撮影である。

 ブルーバックとは人手に寄らずマスク取りをする技術である、この場合GWをブルーの背景の前で撮影する。

 このフィルムのネガは空が補色のオレンジになっている、透かして見てオレンジ色をしているということは光の波長のうちオレンジの成分だけを通過させているということだ、これをブルーのフィルターを付けたカメラで撮影すると空が真っ黒になる(ブルーのフィルターはブルー以外の色、特に補色のオレンジなどを通過させないからだ)これでメスマスクが出来る、これを反転させればオスになる。

 簡単、簡単。しかし被写体とブルーバックを同時に撮影するこの方法はそれなりに制約がある。
 たとえばGWにブルーの部分があると一緒に抜けてしまうので、その場合はブルーバックは使えない、補色関係にあるフィルターを使って背景を黒に落とせばいいのでオレンジバックでもかまわないが青と共にオレンジの部分があったらお手上げである(ブルーバックが多く使われるのは人間の皮膚の色が基準であるからだ、衣装の色は選べるが皮膚の色は変えられない)

 また表面がつるつるのピカピカだとそこに背景のブルーが映り込み、一緒に抜けてしまう。
 これを防ぐにはブルーが映っている部分を明るくすればいい、極端な話ベースが白ければ(白というのは全ての色が最大限含まれているということなので)そこに青が映っていようといまいと関係なくなるわけだ、しかしこれは照明効果を制約してしまう。

 これらを解決してくれるのがM・Cなのだ、被写体とマスク用の背景を同時に撮影せず「被写体を撮るときは、被写体最優先」で撮り、「マスクの時はマスク用のセッティング」で撮れるのである。

 背景も必ずしもブルーである必要はなくなる、被写体を撮ったあとあたっていたライトを全部切り、背景に白い板を置けば被写体がシルエットになっていきなりオスマスクが撮れる(バックライト方式)
 あるいは被写体にライトをまんべんなくあてて影をなくし、背景に黒板をおけばメスマスクが撮れる(フロントライト方式)、被写体の塗料に蛍光材料を混ぜておきライトを全部消して、ブラックライト(紫外線灯)をあてて光らせて撮る(ウルトラヴァイオレット・プロセス)などである。

 「ブレードランナー」のメイキング写真で「スピナーに白いテープを巻き付けている特撮スタッフの図」というのがあった、フロントライト方式でマスク撮りをする際、塗装の黒い部分が抜けてしまうのを防ぐため全体を白くしようとしてるらしいのだがこれは「ほんとかよ?」という気もする、テープの厚みという問題があるし、3次元曲面にキレイにテープが貼れるのか疑問でもある、最大の疑問はそんなことしていてミニチュアの位置がズレないの?ということだ、キチンと貼ろうとして力を込めすぎ支持棒が少しでも動いたらそれでオシマイなのだ。

 (私の経験ではCMで商品撮りが終わるたびにそれを黒スプレーで塗ってしまうという荒技を使ったことがある、スプレーなら力がかからないので位置がずれる心配がなく、バックライト方式では完璧な効果をあげることができる、ただこれはマスプロダクトされた商品が大量にあるCMでしか使えない、1カット撮るたびGWを黒くしていたら美術部に殺されるだろう)

 ・・というのがM・Cの最大の利点だが実はそれだけではない、M・Cは同じ動きを速度を変えて行えるという特技もある、ミニチュアの動きをリアルタイムで確認したあと、同じ動きをたとえば1/10のスピードで繰り返すことも出来るのだ、フィルムのコマ送りもM・Cがコントロールしているのでこれも同じく1/10で行えば仕上がりはノーマルスピードで撮ったものときと同じである。

 しかしなぜ動きも遅くコマも遅く撮れる事が利点であるのかといえばそれは絞りの関係である。

 カメラの絞りとシャッタースピードは補完の関係にある。

 絞り8、 シャッター速度1/500秒は
 絞り11、シャッター速度1/250秒、または
 絞り16、シャッター速度1/125秒、と同じ露出である、強い光を短く当てるのと、弱い光を長く当てるのは同じことだ、ならばどの組み合わせでもいいのか? と言えばそうではない、この3つは明るさは同じでも出来た絵はずいぶん違っている、それは被写界深度が違うからだ。

 被写界深度とはピントが合っている範囲ということだ、理屈でいえばピントというものはフィルムから等距離の(厚さゼロの)面と交差している物にしか合わない、しかしその前後には「ピントが合っていると見なしてよい」範囲がある、これを被写界深度という(たしか理論上無限小に収束するべき光がフィルム面の対角線の3/1000以内におさまる範囲-だったと思うが昔習ったことなので忘れた)

 まあ「実用上このくらいなら許せる範囲」ということだ、この範囲が広いことを深度が「深い」といい、狭いことを「浅い」ともいう、そして被写界深度には4つの特徴がある、それは。

 1・ピント面の手前より奥側のほうが広い
 2・望遠より広角レンズのほうが深い
 3・ピント面がレンズから遠くなるほど深くなる
 4・絞りを絞るほど深くなる 

 ということである、この場合重要なのは3だ、3については人の目でも同じことで鼻先につきだした指を見ようとすれば背景の窓はボケてしまうが、窓にピントを合わせれば、窓そとの雲にもピントが合うということだ、コンパクトカメラを見てもらっても良い、ピントの目安としてたいてい「人の上半身」、「3人並んだ記念写真」、「山」、の模式図が描いてある、つまりバストショット=1~2メートル、とフルショット=5~10メートルはたった数メートルの差でもピントを合わせる必要があるが、それ以上になるとそれが30メートルでも1キロでも関係なくなるのだ。

 つまりこれはある程度以上離れれば、人(やカメラ)は見ているもの全てにピントが合うということだ、この見えているもの全てにピントが合っている状態をパン・フォーカスという。

 さてGWが実際に存在したとして、これが既存のジェット戦闘機程度のサイズがあるとすれば、全体が見渡せる位置から見たこれはパン・フォーカス以外ありえない、コックピットを見ると奥の翼がピンボケだとか、GWにはピントがあっているけど空はボケているなどということはない。

 しかしミニチュアはそうはいかない、GWがカメラ前1メートルほどのところに置かれた場合、被写界深度は紙のように薄い、コックピットにピントを置けば翼端は手前も奥もボケボケになり背景などは何が映っているのかさえ判然としないだろう。

 (模型雑誌の読者投稿写真が今ふたつなのはこのせいであることが多い、実物と寸分たがわぬ紫電改もコックピットにしかピントが合っていなかったら興ざめである、ガンダムをせっかく宇宙バックで撮影しても被写界深度が浅ければ星はぼやけてにじんだ丸にしかならない)

 本物は絶対こうはならないので被写界深度という言葉を知らなくともおかしなことは誰でもわかる、ではどうするか?

 一つはミニチュアを大きく作ることである、「2001年」のディスカバリー号は全長16メートルあったという。

 もう一つは絞りを絞ることである、絞れば絞るほど被写界深度は深くなる、被写体のうちどうしてもピントがあってなくてはならない部分がおさまるまで絞り込めばいいのだ。
 しかし絞った分だけ余計に光を当てなくてはならないが光量を上げるのには限界がある、ミニチュアの場合(そもそもスペースの関係で)ライトがそう多くは並ばない、さらにはこれ以上あてるとミニチュアが熔ける(!)という場合さえあるのだ(「ガメラ」でライトをあてまくったあげく、接着剤が熔けてミニチュアが崩壊し、セッティングのため現場に頭を出すと髪の毛が焦げ臭くなって来る、ということがあった)

 もう一つ、シャッタースピードを遅くして光を補う手もある、しかしスチール写真なら必要なだけシャッタースピードを遅くできるが、ムービーはそうはいかない。

 ムービーカメラのシャッターとはフィルム面の前でくるくる回っているスリットの入った円盤である、これが光をさえぎったり通したりしているのだ、1/24秒で撮影する映画の場合この円盤も1/24秒で回転し、円盤が光をさえぎっているあいだにフィルムは1コマ分送り出され、光が当たっているあいだフィルムは静止し(露光され)、またシャッターされているあいだに1コマ送り出されるということを繰り返している(そんなことが1秒のあいだに24回行われているかと思うとちょっと信じられない、ハイスピード撮影になるとこれが100回以上になるわけだがもっと信じられない)

 さてこの円盤は半月型の円盤2枚で出来ていて、これをずらすことによってスリットの幅を変え、結果シャッタースピードを変えることができる。

 たとえば2枚の円盤を90度ずらすと、口を開けたパックマンのようなスリットが出来る、これを回せば一周360度のうち90度、つまり1/4回転だけ光を通し、3/4回転のあいだは光をさえぎることになる、1/24秒でシャッターは回転しているので1/24の1/4つまりシャッタースピード1/96秒ということになるわけだ、この場合「シャッター開角度は90度である」という。

 シャッター開角度を30度にすれば30/360掛ける1/24秒で1/288秒になる、早いシャッター速度を作るのは簡単なのだ、しかし遅いほうはどうか?

 シャッターが180度の円盤2枚を重ね合わせて出来ている以上、シャッター開角度は180度以上にはならない、映画が1秒24コマで撮影されている以上シャッター速度は1/48秒以上遅くは出来ないのだ。

 したがって普通はこれでおしまいである、ライトを出来るだけ当ててシャッターを開いたら必然的に絞りは決まる、それで深度が足りようとも足らずとも。

 しかしここに最後の抜け道があって撮影スピードを遅くするという手がある(「コマ落とし」と言う)、たとえば1秒1コマで撮影すれば24倍の露出時間になるわけだ、絞りでいえば4段以上絞り込めることになる、とはいえこれは相手が動いていない場合に限られる、これをを映写機にかければ24倍の速度で映写されることになってしまうからだ。
 芝居はもちろん不可能、カメラワークにしても10倍、20倍の遅さになったら手動で行うのは不可能だろう(10秒分のパンを2分、3分かけてなめらかにガタつきなく行い、しかもノーマルスピードで見て不自然でないかどうか判断するのは人間わざでない)

 ・・・いままでは。

 ということだ、つまりM・Cならそれが出来る、ノーマルスピードで動きを充分に検討したあげく「全てを24倍の遅さで」と指定することが出来るのだ。
 合成以外のM・Cの活用法がここにある。

 「ブラック・ホール」という映画(同名の映画が2つあるがディズニー映画のほうだ)は青い宇宙(!)に煌めく星々、横倒しになったカテドラルのような壮大華麗な宇宙船、という時代錯誤的な方向で美術に凝りまくった映画で撮影方法もホリゾントと手前の宇宙船を「一発撮り」するという前時代的なやり方だ。

 宇宙船とホリゾントにピントを合わせるとなると鬼のような絞り(?)が必要になり結果1コマ30秒という長時間露光が必要だったらしい、しかしカメラは移動している、つまりノーマルスピードに対して1/720の速度のカメラワークということになるわけだ、結局これは一見前時代的な撮影方法ながらM・C技術あって始めて可能になった絵であると言える。





 で、「GW1号、エンジンノズルよりバーナー吹き出し前進、FO(フレームアウト)」の撮影です、いよいよM・Cの登場です。

 「ははあ、なるほどGWにピントを合わせるためM・Cを使ったコマ落としをやったんだな、その説明のためにこんなに長々しくM・Cの解説をしたんだな」と誰もが思うでしょうがそうではありません\(!!)/

 いや、というか本来その予定で打ち合わせの時からこのカットはM・Cということになっていたのですが、3尺サイズの通称「デカGW1号」(デカすぎてTVではほとんど出番がなかった)をカメラ前に据えたところ、ノーマル撮影でもピントはいける、ということになったのです(いつもの1尺モデルではこうはいかなかったでしょう、3倍デカいだけのことはあります)じゃあ手動でもいいじゃん、と言っていたところが撮影部からエンジンノズルの撮影効果のためにやはりM・Cでお願いします、と言ってきました。

 このGWのエンジンノズルは半透明のアクリル板で中にハロゲン球が仕込まれています(通称「行灯」)、ハロゲン球の光量は大きく普通は充分に明るく映るのですがこのカットではピントをかせぐためGW本体に強い照明を当てているので、相対的にノズルの明かりが弱くなってしまったというわけです。

 GW本体の明るさは弱い光で絞りを開けて撮っても、強い光で絞って撮っても変わりありません(繰り返しになりますがピントのあっている範囲が変わるだけです)しかしハロゲン球で照明されているエンジンノズルの光量はどちらの場合でも変わらないので絞れば絞るほど暗く見えてしまうわけです、これぞまさしく昼行灯、エンジンノズルは明るく輝き、にじみが出る程でないと感じが出ません。

 撮影部の意向は、まずGWを普通に撮り、次に全ての照明を落としてエンジンノズルの明かりだけを絞りを開けて撮るというものです、絞りを開けるとピントが来なくなりますがもともと光量オーバーでにじんでいるのが狙いなので、ピントが合っていなくても全然OKなのです。

 では予定どうりに、ということでM・Cのセッティングです、なんのことはないM・C用の移動車の上にGWを固定するだけなのですが。

 動きは適当に付けてくれ(!)というカメラマンのご要望で、スロースタートし加速しつつ左にフレームアウトしていく動きを仮に作りました。
 GWの力強さとダイゴの意志を表現すべく「気持ちいい」というよりはやや急な加速感を作ってみたところそれでOKということになりいよいよ本番です。

 まずはGW本体の撮影「クラッパー」と呼ばれるタイミング合わせ用のライトを手持ちでレンズ前に出しておきカメラスタート、M・C制御用のコンピュター(98ノートNS/E)のキーを叩くとクラッパーが一瞬光り、プログラムがカウントダウン開始、クラッパーを引っ込める、指定時間経過するとコンピュターがパルスジェネレーターに回転開始信号を送り、ジェネレーターがパルスを発信、パルスを受信したステッピングモータードライバが電流を送り始め、ステッピングモーターが回転を始める、モーターはウオームギヤを回し、ウオームはタイミングプーリー(歯付きプーリー)を回し、タイミングプーリーは噛んでいるタイミングベルトを巻き取ろうと回転を始めるがタイミングベルトは固定されているのでプーリ自体が移動車とともに移動を開始する、GWを乗せた移動車はスロースタートしたと見るや急激に速度を増し、左にフレームアウトしていく・・・

 カット! でまずOK。

 GWを元の位置に戻してライトを全て消し、絞りを変える。

 エンジンノズルの電飾を入れ、再びスタート、クラッパーが光る(クラッパーからあとのタイミングは全て同じなので編集時に2つのクラッパーを合わせれば、エンジンノズルとその明かりの動きは完全に一致するはずである)

 MCであれば何度やっても同じなので一発OK以外ない。

 このあとはアートデッセイ格納庫の撮影、置いてあるだけで出番はなし。

 最後にライトの前で黒スモークを焚き「闇につつまれる太陽」のテスト撮影を行う。

 21時終了。

 10月26日 (火)

 「闇の異空間」よくわからない多層構造になっているルルイエの遺跡の基準となる場所がここである。

 黒いスパークレンスを使ってティガダークに変身したダイゴとそれを追って変身した3巨人が始めに立っているのがここだ、そしてダーラムがダークの足を持って地面に引きずり込むとそこが先に撮影した「地底湖」になる。

 ダーラムを倒したティガトルネードがここに戻ってくると今度はヒュドラが空間をゆがませて「異界の空」へ連れ去る。

 イルマ隊長が爆弾を破裂させるとその炎が「異界の空」に影響して、トルネード、ヒュドラ共にここに落ちて(?)くる。

 ヒュドラをかたづけた(!)ティガブラストはここから歩いて(??)最後の決戦地「闇の神殿」に至るというわけだ。

 位置もつながりも明確でなく、すべて「異空間風」になっているのが今回の映画の最大の弱点ではないかと私はひそかに(うそ、けっこうおおっぴらに言ってる)思っているのだがどうか?
 怪獣映画の醍醐味は明るく晴れた青空のもと、自分がその場にいると容易に想像出来るような日常的な風景の中に異物としての怪獣が出現し、そのなじみの風景を破壊していく一種のカタルシスにあると思うのだが。



 しかしともあれ異空間だ、操演部的には特に目立ってやることはない(各立ち回りの中間地点だからだ)

 初日は地底湖に引き込まれるダークの吊りくらいでおわり。

 21時終了。

 10月27日 (水)

 9時開始、 闇の異空間続き、一発目に「異界の空」から落下してくるヒュドラとトルネード。
 トルネードはカメラ前なのでカメラ脇のイントレから飛び降りるだけだが、セット奧に落ちるヒュドラは足場が作れないので権藤君は空中ブランコ(の取っ手のような物)につかまって吊り上げられ、自分で手を離して落ちてくる(「ブランコ」という技として定着している)

 双方の落ちた場所に平台爆弾(地面から土くれが舞い上がるガイアで死ぬほどやっているアレだ)を仕込む、ブランコといい平台爆弾といいやり慣れたカットでもあり一発OKとなった。

 本日も操演的には目立ったことはない、私は翌日使用するヒュドラの爆発人形の仕込みをする、ダーラムと同じく2/3サイズのでかいものだ。

 18時終了。

 10月28日 (木)

 9時開始、ヒュドラの爆発で闇の異空間は終了。

 続いてルルイエの遺跡の崩壊を撮影、例によってバタンコ仕掛け。

 夜はオープンに出て、「異界の空」、及びルルイエ表「ゾイガーの穴」のナパーム。

 「異界の空」は空だけでなく、地上(異界の空の地表?)も入っている、その地表を火炎が舐めていくという絵を作りたいのだが、ナパームの火球は(まあ火なので)すぐ上昇し地上から離れてしまうので「舐める」という具合にはいかない、そこで<逆さ斜めセット>を組む。

 本来平らに置くべき地上のミニチュアセットを立て、垂直よりなお下向きにセッティングするのだ、セット下でナパームを焚けば、上昇する火球がいやでもセット表面を舐めていく、これが水平に見えるようカメラを傾けて撮影すれば見事地上を炎が舐めていく絵の出来上がりである。

 これは「インディペンデンスデイ」からのいただきである、UFOからの光線でビル街が破壊されていくシーン、通称「炎の壁」はミニチュアのビル街を垂直に立て真下からナパームを焚いているのだ。

 操演部的には大したことないが(なにしろナパーム一発なので)大きなミニチュアセットを斜めに固定する美術部はえらいさわぎである。

 一発OK、というか一発でスチロール製の山が熔けてしまうのでNGは無い(!)
 
 ついでデラック砲の直撃を受け、爆発する「ゾイガーの穴」これもナパーム一発・・いや2発だ、勢いのあるナパーム一発とあとが素抜けになるのを防ぐ弱いナパームの2発、これまたセットはスチロールなので一発OK、何と言うこともないカットだったが相変わらず日活オープンは虫が多い、虫よけがたいへんだったというべきだろう、なにしろゾイガーサイズの蛾がゾイガー並に飛び交っているのだから。

 20時終了。

10月29日(金)

 9時開始、今日から3日間はグリーンバックで飛行機の飛び関係をまとめて撮る。

 まずは鳥居を組んで、TPC機、及びGW1号、2号の撮影である、「鳥居」というのは4メートルの間隔で立てた2本の鉄骨の間に3メートルほどの高さでもう一本の鉄骨を渡した(横棒が1本しかない)鳥居のような形をした枠のことである。

 この横棒の中央にモーターで回転する回転機を付け、回転機の下にプーリーの付いたモーターを2個付ける、プーリーの一つに飛行機の両翼端に結んだピアノ線を掛けるとこれで飛行機のバンクが出来る、もう一つのプーリーには機首から来るピアノ線を巻き付けるとこれで機首の上げ下げが出来る。

 3つのモーターを3つのスライダック(可変抵抗器)につなぐと、飛行機の3軸の動きを全てリモコンで操作できるというわけだ。

 始めにTPC機、GW1号、2号の順に撮る、これは助手に任せておけるので(というより、数ヶ月しかやっていなかった私より3本のウルトラシリーズを全てこなした大久保、青木のほうがよっぽど熟練しているのだ)私はヒマである。

 17時終了、おお定時だ。

10月30日(土)

 9時開始、今日、明日はアートデッセイのグリーンバックである、アートデッセイはめちゃくちゃ重いので基本的に自力では動かずカメラが移動する。

 今回は絞りの関係でコマ落とし撮影必至であるため(先に述べた被写界深度稼ぎだ)カメラをモーションコントロールヘッド(パンとティルトがコントロール出来るカメラ台)に乗せモーション用の移動車に乗せる、アートデッセイはバンクのコントロール出来る支柱から付き出す。

 4つのモーターを駆使してスタート位置の見え方を決め、カットの最後(カット尻という)の見え方を決める、南蛮渡来の(数百万円する)モーションコントロールプログラムだと始めの位置と最後の位置をシステムに教えてやると(まさしくティーチングというのだが)あとはどれかの軸(普通一定スピードで動作する移動のモーターだ)を基準に残りのモーターを自動でコントロールしてくれる、しかし亀甲船のモーションコントロールシステムは98のCバス(ふ、古!)に工業用のパルスジェネレーターをつっこんで、プログラムはクイックベーシック(一部マシン語)で私が組んだ完全自作のシステムであるためメモと電卓(!)の作業になる。

 「全体を○秒でね」と指定されるとあれこれ調整し、ためしに移動してプレビューして見せる、「もうすこし速いほうがいいか」とか言われるとまた一からやり直しである、動きがOKとなると今度は途中で何回か止めながら撮影部セカンド(フォーカスに責任がある)がカメラとアートデッセイの距離を測り被写界深度から必要な絞り値を出す、と撮影部チーフ(露出に責任がある)が露出時間を逆算してコマ落としの計数を算出する、コマンド1発で<何分の1の速度>が指定出来るお高いシステムではないので私は再び電卓を叩きつつ全体の調整を行う、一度コマ落としになってしまうとそれが正しい動きかどうかは肉眼では判別出来ないので常に一発OKである。

 昨日とうって変わって、今日は操演技師のみが働く日になってしまった。

 17時終了。

10月31日 (日)

 9時開始、アートデッセイの続き、今日はどうしても抜けられない法事が昼からあるので、代理に川口を呼んである(モーションコントロールシステムは亀甲船社員しか扱えない)、午前は動きがなくすることが無かったので結局なにをするでもなくスタジオを後にする。

 11月1日(月)

 9時開始、アートデッセイの続き、ただしモーションコントロール関係は昨日までで終わり今日は「腹見せ」のカット用に横吊りにしたりするのみ。

 昼には終了、「遺跡内、石造りの前室」の爆発素材に移る、これは大谷の資料館最深部で撮った壁面爆破の絵に合成される煙である。

 撮影済みのコマをカメラに入れファインダーを覗きながらロケの壁面と同じ形の黒いミニチュアを作る、爆発が起こるべき場所にエア砲を仕込みセメントをコップ一杯ほど入れて打ち出す、壁面の形状は正確に縮尺されているためホコリの振る舞いはロケの壁面に則している。
 そしてホコリ以外には明かりが当たらないよう慎重にライティングされているため背景は真っ黒に落ちており、合成といっても濃度調整して2重露光すればそのまま使える絵に仕上がっているはずである。

 18時終了。

 11月2日 (火)

 9時開始、崩壊する遺跡や、横浜ビジネスパークで撮影したゾイガー襲撃の絵に合成する瓦礫の撮影、グリーンバックでスチロールや砂を落として撮る。

 冒頭ダーラムがTPC隊員に向かって投げた石柱も吊って撮る、これは隊員の上にのしかかる石柱の合成素材である、石柱が地面に落ちたあと舞い上がるホコリ素材も黒バックで撮影する。
 
 18時終了。

 これで一連の吊り、グリーンバック(一部黒バック)関連の撮影は終了である、明日は撮休だ。



 なんだかこの日記急に急いでないかい? と思ったあなた、あなたは正しい。

 のんびりと1日を1週間以上かけて書いていたところがすでに半年、うっかりしていると今年の映画が始まってしまう! のだ。

 実は今年の夏は忙しい、来年が円谷英二生誕100周年であるため円谷の3人のプロデューサが3人ともウルトラを作るのだ、セブンの流れを汲む「ウルトラマンネオス」がOVAで12本、「ティガ」「ダイナ」「ガイア」(以後「TDG」)の番外編がやはりビデオで3本、新作の映画もある。

 映画は8月クランクインだが私は始め「TDG」の立ち上げに参加し映画が始まったら映画に移る予定になっている、この「TDG」は7月半ばがクランクインの予定だがもう2,3日のうちにロケハンに行く予定になっている、新しい作品が動いているのに去年の日記なんて書いてる場合じゃないでしょ、と言えばこれはもう全然時間がないのだ。
 悪いのは誰だ!ってもちろん自分なんですが、ともかくあと7日分すこし急いで書き上げたいと思います。


11月3日 (水)

 撮休

11月4日 (木)

 今日から2日間は2班体制での撮影となる、これはセカンド助監督の菊地(セカンドは本来スケジュールに責任を負わないのだが、彼はウルトラシリーズ、ガメラの経験を買われて特撮のスケジュールを組んでいる、特撮チーフ助監督と言えるだろう)が、本編の撮影が1日延び、更に当初撮る予定のなかった合成素材を撮るハメになったため、撮影日数を延ばすか、B班を立てるかしなければスケジュールに責任が持てない、とプロデューサーにねじ込んで実現したものである。

 チーフ助監督は早く帰ろうの休みをよこせのとうるさいスタッフ(私だ)と何が何でも期限を遵守しろと言うプロデューサーの間に立たねばならないやっかいな職種だが、ウルトラの満留、ガメラの神谷といった海千山千のチーフに付いていただけにその辺は抜かりがない。

 それにしてもガメラでもそうだったが、撮影を延ばすよりB班を立てる(新規に人を雇ったり機材を借りる必要がある)方を選ぶプロデューサーの胸算用というのがよくわからない、特に今回は延びてもたった2日なのだが。

 というわけで操演部は応援として川口と黒瀬を呼んであり私が黒瀬と二人でB班を担当する、本来A班(人物がらみ、アクション)がメインで撮影、照明共にA班に技師が付いているのだが、操演的には弾着少々とホコリ程度しかなく「いつものアレ」でしかない。反面B班の合成素材は「やってみなければわからない」ものもあり、こちらのほうにこそ私がいるべきだろうというわけだ。

 (素材撮りは合成担当者やCG屋さんが仕切ることが多く様々な効果が要求される、自分の仕事がうまく、楽になるように色々な素材が欲しいのはわかるのだが、物理的、科学的、時間的、予算的限界! に付きあたることもままあり、この仕掛けじゃこれ以上のことは出来ません、と言い切れる人間が居ないと困るという政治的な理由もあったりする)
 今回のB班の主な素材は「泡」である、ティガダークとダーラムの地底湖の戦いに合成される泡素材があれこれ必要なのだと、でもたしか1年前も同じ8Stで「水中戦用の泡素材を私がB班と共に延々と撮影した」ような気がするのだが、と合成屋さんに迫ったのだが、今回のあのカットに使うこんな素材がないんです、このカットに使うあんな素材もないんですよね、と言われると是非もないのであった。

 借りてきた巨大水槽にエアストーンのほか泡が出るあらゆる仕掛けを沈め、全てにバルブ付きのホースをつなぎ、多くも少なくも、一点でもカーテン状にでも自在に泡を出せるようにしておく、2台の水中ポンプも左右に沈め、いろいろと水を動かすことも出来る、これはなるべく仕掛けをいじる必要をなくすためだ。

 水槽には空中に漂うホコリが入ってこないようフタをしておく必要があるのだが仕掛けをいじるにはフタをとらねばならない、そして水面が空気に触れる時間が長ければそれだけホコリが落下して水は濁っていく。

 泡をキレイに撮るため水槽には逆光がバシバシと当たっているので水の汚れは白く浮き出てくるのだ、黒バックの黒が黒く見えなくなった時が水の取り替え時機である、一回の注水でどれだけの素材が回せるかは実はどれだけフタを取らずに別な仕掛に移行出来るかという段取りにかかっているのだ。

 朝から晩まで泡を撮り21時終了。

11月5日 (金)

 9時開始、私は引き続き8StでB班。

 ゾイガーがビルを破壊したときの破片素材が欲しいとのことでエア砲を使い瓦礫を撃ち出す。

 次にデモンゾーアの氷の槍攻撃の当たり素材である珪砂飛ばしに移る、地面を走って来る俯瞰のグリッターティガ周辺に合成するため床をグリーンバックにして俯瞰の爆発素材である。

 準備するうちA班が12Stの撮影を終え合流する、床に巨大なグリーンの布を敷いての撮影である。
 爆破してみるとわずかに爆発の規模が大きい、グリーンバックの中に爆発の全てが収まっていないと合成素材として使えないのだが、火薬の種類は決まっているので「今のやつよりちょっとだけ弱いやつ」なんてわけにはいかない、珪砂の量を変えたり、火薬の個体差(たまに少し弱いやつもあるのではないか)に期待したりであれこれと苦労する。

 18時終了。

11月6日 (土)

 プロデューサー命令で12Stはバラシに入る、8Stは12Stの半分ほどの広さでホリゾントもなく小規模な撮影しか出来ない、もう本格的な特撮は無し、という宣告でもある、最後のロケに出ているうちに大映のスタジオをバラし始めたガメラ3を彷彿とさせる、退路を断つ感じとでも言えるだろう、プロデューサーというのはそんなにも「スタッフてのはほっとくといつまでも撮影しているものだ」という危機感を持つものなのだろうか? (ずるずると1ケ月も延ばしてまだ終わる気配の無かったガメラ1という実例もあるから文句も言えないか?)

 今日はまず古代のウルトラ戦士達とゴルザ軍団(?)との戦い、ついでウルトラ戦士同士の内乱(??)である、ゴルザは合成で数を増やす、ウルトラ戦士たちも角やかぶり物を張り付けてシルエットを変え多重合成で数を増やす。

 操演的には火薬が少々あるだけ、22時終了。

11月7日(日)

 9時開始、崩壊するルルイエの遺跡、バタンコで海に沈んでいく遺跡を撮る。

 同じ仕掛けを利用して、違う場所に見せかけ3カット分を回す。

 18時終了。

11月8日(月)

 今日、明日は操演部大忙しの吊り大会である、GB前でティガダーク、トルネード、グリッター、カミーラ、ヒュドラ、ダーラムを色々な姿勢、動きで撮影する、その数45カット9時~9時の12時間、食事タイムを除いて1日10時間とすれば1カットに30分はかけられないわけだ、ここは段取りの腕の見せ所である。

 まずは菊地と2人で予定を詰める、菊地もそれなりに考えた予定表を書いて来ているのだがまだ甘い、これがウルトラTVシリーズ時代の満留チーフの書いた予定だと一分の狂いもなかったりする、操演部的におかしいところがあってクレームを付けにいくとこれはあれがナニして照明的に××であるからこの順のほうが早いと思われます、と言われてグーの音も出ないのであった、それと比べるとこのカットはこれの後にしようといった部分がけっこう残っているのだ。

 撮影時間というスタッフ、キャスト全体にかかわることが考え方一つで大きく変わるのでまずはインサイドワークが大事なのである。

 というわけで現場を助手連にまかせ、私と菊地は次に何を撮るか予定表とにらめっこする、どのくらいのペースで撮影が進みどこで食事をいれるかも考慮しなければならない、食事をするときは役者さんはスーツを脱ぐわけでどうせならその時にピアノ線の取り回しを変えるという大工事をしたいわけだ、何が時間がかかるといって吊りベルトの着脱、ピアノ線の結び直し、線塗りのやり直しほど時間のかかるものはない、同じ仕掛けを2度やるほど無駄なことはないのだ。

 夜もふけた頃、仕掛け変えなしでいける一連のパターンを終わらそうとすると「送り」必至であることがわかった、普段なら遅くなってもやろうとは絶対言わない私だがここは自ら完遂を提言する、目先の楽より全体の利益を考えたと言うべきだろう(←普段は考えていないのか?)

 今回の撮影で始めての送り、23時30分終了。

11月9日(火)

 9時開始、GBの吊りの続き、昨日で椰野の出番は終わった、今日も早々と中村君の出番が終わる、花束を監督から手渡されスタッフの拍手をうけて一人また一人と去っていく。
 
 当初の予定では長谷川君が最後まで残ることになっていたが、例によって段取りを徹底的に洗い出したところ、予定を前後して権藤君が最後になったほうが無駄がないことがわかった、その旨を両者に伝えたところ長谷川君が複雑な表情をしている、なにかと思ったら「本当の最後でないとつまらない」のだと言う。

 どういうことかというと、自分の出番が終わったときが撮影の最後であれば「お疲れさま」と言われて本当にねぎらわれている気がするが、「お疲れさま」と言われても花束をもらっても撮影自体が最後でないとスタッフは即「つぎ行こう」という感じになって置いていかれるような気分なのだそうな、TVシリーズでも最後の最後は権藤君に取られ(!)「またいいとこもってかれた」ということらしい、そういう意識があることを始めて知りました。

 というわけで長谷川君も去り、最後に権藤君も去り、ついにこれで平成ウルトラシリーズも一段落してカッコいい権藤マンも見納めかと思うとすこし、いやかなり、悲しいものがあります。

 18時終了。

11月10日(水)

 9時開始、ついに最終日。

 まずは地球を浸食する「闇」の素材、平台をグリーンに塗り中央に開けた穴からドライアイスで冷やした黒スモークを湧き出させて撮影する、次はルルイエの遺跡から立ち昇る闇素材としてドライアイスで冷やされて落下する黒スモークをGBで撮影する(上下逆にして使用することになる)

 最後は「コンペイ糖」こと、異界の空にうかんでいたトゲトゲの星(?)の爆破、ヒュドラの光線の流れ弾で爆発するコンペイ糖だ。

 コンペイ糖は直径50センチほどのスチロール、昨日のうちに火薬は貼ってあったのでカメラ前に置くだけだ、最後の最後が爆発で終わるというのは景気が良くていい(NGも絶対ないし)
 「よーい、ハイ」ドカン!、でお疲れ、9月2日のクランクインから2ヶ月と9日の撮影が終了した。

 「事故も怪我もなく、送りも少なく(!)作って(あまり)しんどくなくて、見て楽しい作品が完成することを、映画の神様に祈ろう」と私は最初に書いた、事故も怪我もなく、送りも少なく(!)作って(あまり)しんどくない撮影ではあった、私の出来ることはもうない、あとは祈ろう。