ウルトラマンコスモス     THE FIRST CONTACT

 10月

crank-in

1日 (日)

 満を持してクランクイン・・のはずが天候不良で中止。

10月2日 (月)

 相模湖ピクニックランドロケ、操演部は出番ナシなので作業場で準備、朝から雨が降ったりやんだりなのでどうかと思っていたらやはり1カットも回せず帰ってきたとか、いきなりピンチである。

10月3日 (火)

 朝のうちは雨という予報なので出発を遅らせ11時調布出発で相模湖ピクニックランドロケ、私は帰りの事を考えて車で直行、埼玉県からだと東京を縦断することになりどこをどのように走っても渋滞に引っかかる、所用2時間半(岩舟ロケの3倍である)

 我々の出番は薄暮狙い(というか設定は早朝なのだが)のカットだが前のカットが押して結局暗くなってからになってしまった、フォグを焚いて朝モヤを作る、ドライアイスを使って湖面(池があるのです)を漂う霧なども作る。

 その後、送風機、散水ポンプを使った嵐のシーンとなる、当然操演部の出番と人は思うだろうが雨・風は特機部(カメラクレーン、移動車などを扱うパートだ)の扱いとなっている(長年の習慣である)

 さてこれは子供達が作った砦が嵐に襲われているというシーンなのだが、砦のてっぺんに結び付けられた旗が風で飛ばされるというカットがある、打ち合わせでは出ておらず間際になって監督と大岡氏が思い付いたらしいのだが稲妻があるので外からピアノ線で引っ張るのは止めて欲しいそうな(光って消せない)
 なんらかの仕掛けで旗を棒からはずすことになる、私はロケハンにも行っていないし旗も見ていないがこれぐらいの仕掛け出来ないとは言えない、ここは瞬発力が試される場面である。
 結局旗が結びつけられている棒にピアノ線を這わせ、旗の紐を棒に結んだ様に見せかけて実はピアノ線に結び付け、タイミングでピアノ線を下に引き抜いてはずす、という仕掛けを作る。

 出番を待っていたら21時30分で撮影終了となってしまった、タクシー送りを出さないための作戦らしい、送りのリミットは23時である、調布までもどって23時以前とするためにはこの辺で止める必要があるわけだ。

 ロクな仕事をしないまま本日終了である、私は高速を飛ばしに飛ばして23時には家に着いた、皆はそのころ調布駅解散だったらしい。

10月4日 (水)

 初登場の小型ロボット(主人公の男の子が持っている)が歩かないと困るので朝から来てもらえませんか、と演出部に言われたのは昨日の夜である、ラジコンで歩く仕掛けになっているものの万一のことを考えて居てくださいと。

 「操演部を便利屋だと思ってないか?、我々が現場で操るものは前もって準備してテストして来ているんで、始めて見るロボットが歩きませんと言ったって今日の今日、今の今で何が出来るというもんじゃないんだぞ」とさんざん助監督を脅す(!)

 脅すというのも穏やかでないが監督ほかスタッフに「もし自力で歩けない場合は操演部にお願いしてあります」などと説明されてしまうのは困る、「歩き」をうちが引き受けて仕掛けを作り、現場に持ってきたもののまずいことになったというなら責任をとる覚悟はあるが、「自力歩行出来ます」ということになっていた作り物を当日急に歩かせてくださいと言われても責任はとれない。

 でも皆はそんな細かな事情は知らない、というか、操演部がたいていのものはテストした上で現場に来ているということ自体知らない、だから我々が手を出せば皆これは操演部の通常のお仕事だと思うし、出来て当然と思われてしまう。

 これは昨年の映画で当日言われた「カミーラの髪飾り割れ」と同じことだ、これは連絡ミスのためなんということも無いカットに延々一時間半かかってしまった、ハタからみれば腕が悪いとしか思えない、他のスタッフに「腕が悪いのでは無いか?」 と疑われることがどれだけ業務に差し支えるかは言を待たないだろう。

 だから「出来ます」というのでお任せしていたものを急に何とかして下さいと言われるのは大嫌いなのだ、しかし「聞いてないからやらない」というのではあまりに保身に走っていると言わざるを得ないだろう、結局無碍にも出来ないので、ピアノ線だけ持って午前中から顔を出そうということになる。

 しかしこの場合「歩かないかもしれない」というのは急にわかったことではない、そんな不安があるなら前日にロボットを持って来させてテストすればいいだけのことだ、問題があっても前日ならまだ我々にも手の打ちようがある、それが段取りというもので、段取りを組むのが助監督の役目なのだ、やるべきことをせずにおいて後始末だけを操演部に頼むというのは職務怠慢である「脅す」というのはつまりそういう事なのだ。



 ということで午前中に来てみればしかし「うまく行きそうです」でチョン。

 我々の本当の出番は夜だ、この長い午後をどうしてくれる、近場なら戻って別の準備をするが相模湖あたりから戻りたくはない、結局この緑以外なにもない場所で初秋の午後をダラダラと過ごすはめになったのであった。

 出番になったのは結局21時(延々9時間の待ちである)やるべきは旗飛ばし、昨日から準備していただけになんということもないカットだった、これが22時には終了、ところがこの旗が池に浮いているというカットがありその背景で朝モヤが必要だということになり(打ち合わせにもなく、絵コンテもないカットだ)また延々と待たされる、仕掛けが全ての我々と違い本隊撮影は芝居が最優先だ、人物がからまないカットは当然のように後回しにされる。

 再び待ちとなり、結局本日のラストカットとなった「旗浮き」のカットが終了したのは午前2時30分であった。

 我々は即座に現場を離脱でき私は4時には家に着いていたが照明部のバラシが終わったのは朝だったという。

 当然のことだが本日は休み、と言っても好きなだけ寝れば起きるのは午後になるし、早く起きれば一日ダルい、休みとは名ばかりの一日にしかならないのだが。

 10月5日 (木)

 ということで休み。

 10月6日 (金)

 日活にて打ち合わせ10時から19時30分まで。

 10月7日 (土)

 16時開始、八王子工科大学ロケ、今回の科特隊(みたいな組織)の全景がここだ、走り込んで来る車のヘッドライトを浮き立たせるためのFOG焚き。

 だだっぴろい敷地に建物が余裕で建てられているため風の通りが良く、FOG焚きには良い条件ではない、たいしたことはないと思って助手を2人しか連れてこなかったのは失敗、FOGメーカーを持って走り回るハメになる。

 19時30分終了。

 10月8日 (日)

 撮影隊はロケーションに出ているが操演部とCG班、佐川特撮監督、他は日活にて参考ビデオの撮影。

 今回の映画はウルトラマンと宇宙人の宇宙空間での戦いで幕を開けるのだがこれがほとんどフルCGだ、宇宙空間を自由に飛び回って光線を発射し格闘する、というのを吊りでは出来ないアクションで行おうというわけだ。

 しかし、橋爪くんの絵コンテのつぎが完成品というのでは落差がありすぎる、CG班の自由度と責任が多すぎるし監督の演出が入る余地がない。

 そこでビデオコンテを作ろうという話になった、これはスターウオーズなどでは昔からやっている手法だが合成が多いカットなど完成品のイメージがつかみにくいカットではスタッフの意思統一に役立つ。

 実際にスターウオーズでは棒の先に付けた人形をカメラ前で動かして撮る、というようなお手軽な方法で行っているようだ、どんな仕上がりになるのか見当が付きさえすればこれはお手軽なほうが良い、なまじ完成度の高い絵を作ってしまうとそれにとらわれてかえってイメージが広がらなくなってしまうからだ、絵コンテの絵は簡潔でイマジネーションを広げる余地があるほうが良いのと同じである。

 (あるいは「もうこのまま映像化すればそれでOK」というような完成されたコンテを描くかのどっちかだ、樋口真嗣とか宮崎駿なみの才能が必要であるが)

 しかしじゃあそれをどう撮るか? というのは難しい問題である、生身の人間を使い操演部が吊って実現出来るならわざわざCGを使う理由はないからだ。

 結局1カットのなかの重要なポーズや位置関係を止め絵で撮っていくというような形式になる(まるでアニメの原画だ)
 両者が複雑に位置を入れ替えるカットなどは「飛んでいるつもり」で両者床に立ち、両手を広げて飛ぶマネをしつつ床上を走り回るというようなマネもした、ハタからみればウルトラマンごっこそのものである。



 17時終了。

10月9日 (月)

 神奈川県稲城市、向陽台の林に明日の撮影の準備で「カメラ親線」を張りに行く、木立の間をカメラが飛んでいくためのワイヤーを木と木の間に張るのだ。

 自然木を利用した親線というのはまあよくあることで「タオの月」では河口湖畔の林にワイヤー親線を張り1本の線に2台の台車を付け、それぞれに人を吊ってチェイスをさせるという難度の高いこともやっている、今回は人は乗らずカメラだけ吊ればいいので楽勝である・・と思っていたら雨!

 撮影そのものなら雨がふれば中止だが準備はそうはいかない、明日撮影なら今日張っておかなくては間にあわないのだ。

 ぬかるむ土の上で泥だらけになりながら、スライド梯子を苦労して操り、木に登ってワイヤーを張る、もちろん皆カッパは着ているが必然上を向くことが多く、上を向けば首すじから雨が侵入する。

 一番雨の強い時に作業を行い、終わった頃に雨は小降りになり、日活に移動した時には雨は上がっていた。


 午後から昨日の続き、ただし今日はモーションキャプチャーである、キメのポーズ、光線発射のアクションなどは殺陣師が考え監督がOKを出すものなので実際の役者の動きをcapture(取り込む)する必要があるのだ。

 「モーションキャプチャー」という言葉は最近のコンピューターゲームで良く知られるようになった、が人間の体にマーカーを付けその動きをカメラで撮影して解析し3次元の動きとしてデーター化するシステムの事である(昔は磁気式というのもあったが有線であり、強烈な磁場を必要とすることもありすたれたようだ)

 マーカーというのは再帰性反射フィルム(光をもと来た方向に反射させるフィルム、道路標識などに張ってあってライトで照らすとそれ自体が発光しているかのように輝くあれだ)が表面に張られたピンポン玉ほどのボールである。

 これを役者の体の各所に張り付け数台(ここでは8台)のカメラで撮影する、マーカーは1つのカメラからは2次元的に(上下左右に)動いて見えるだけだが、他の位置のカメラから見てどう動いたかを調べ総合的に解析すれば3次元の動きがわかるという仕掛けである(理屈ではそうだが実際のプログラミング技術や計算量は想像もつかない世界だ)

 モーションキャプチャーが出たばかりの頃は、カメラのセッティングにえらく時間がかかり、しかもカメラの置いてある床と対象物は同じ平面にいなくてはならないなどいろいろ制約があった、しかし今やえらく簡単でしかも精度の高いキャプチャーが出来るようになっている、今回は吊りも多用しているし、同時に2人のキャプチャーも行っている、ウルトラマンと宇宙人が空中で「からむ」カットなどは宇宙人が「寝せ台」に寝て、ウルトラマンを横吊りにして上から吊り降ろしてつかみかかっているのだ、しかも位置調整のため足を私が持っている(私の後ろのカメラからは私がジャマでマーカーが見えない)などしているのだがまったく問題がない。

 キャプチャーが終わった途端、解析の時間などあらばこそコンピューター画面に線画の人間が現れて今の動きを再現し始めるのには感動してしまう。

 最近は2人同時どころか群衆シーンでもOKなのだそうな。



 18時終了、帰ろうと思っていたら北浦監督補から電話、「今日は雨で親線張れなかったよねえ」と言うから、雨をおして準備してきましたぜ、と答えたら「あっ、張ってくれたんだ、雨降ってだめだろうからスケジュール考え直そうと思ってたんだ」と言う返事であった

 ! 考える余地があったんなら朝言ってくれい。




 10月10日 (火)



 稲城総合体育館裏の林で「カメラ親線」の本番。




 10月11日 (水)

 「八王子こども科学館」で「こども科学館」の撮影、地下の作業室が「おもちゃ病院」という設定になる。

 小型ロボットを主人公の少年が「博士」からもらうシーン、ジュブナイルの王道と言ってよいだろう、ロボットの「吊り」や合成カット用の「突き出し固定」などを行う。

 夜遅くに撮影は終了、撮影隊はそのまま明日のロケ先である山梨県都留市の道志村へ移動する。
 ここはもうすこし行けば山中湖というあたりだ、早出をすれば当日でも行けない場所ではないのだが早朝のシーンがあり7時には現場に居たいという希望のため前日からの泊りとなっているのである。

 操演部は一番手からの出番はないというので3人の助手のみ先行させ私は当日行くことにする。

 10月12日 (木)

 5時起き、まだ暗い中をマイカーで出発、昨日のうちに行っておけば2時間近く余分に寝られたわけだが、自分の家の風呂にはいり自分の布団で(枕で)寝られる方を私は採った。
 
 早朝のこととて高速は空いており快調な走りである、途中雄大な朝焼けなども拝めてお得な気分だ。
 予定よりかなり早いペースで進んだため談合坂のサービスエリアでゆっくりと朝食をとる、サービスエリアの食堂といったらマズイ食事の代名詞であったが、近年システムが改変され独占営業ではなくなったので意外とうまいものも食えるようになった。

 ロケ現場のオートキャンプ場に予定どおりの8時到着。
 ここでの操演部の仕事はただひとつフォグ焚きのみだ、早朝の雰囲気を出すための朝モヤ作りである、朝モヤといっても朝だけでなく一日中林の中を右往左往してフォグを撒く。

 山の中のことゆえ4時には太陽が沈み撮影不可能となる、ロケは今日明日の予定なので宿へ戻る、私もさすがに今日は泊りである。

 宿は絵に描いたような安民宿! 玄関を開けるとまず正面に家族団らんの座敷があり、オーナー一家がTVをみながらくつろいでおり、割り当てられた部屋に行こうとすると「おにいさんごくろうさま、まあこっち来てお茶でも飲んでいかんかね」と声をかけられるほどのアットホームな宿である。

 夕食はありがちな焼き肉の鉄板焼き、ところでロケの夕食と言えば「宴会」と相場が決まっている、ロケはそれが楽しみというスタッフも多い、ところがアルコールが1ミリグラムも飲めない私には昔からそれが苦手であった、技師となった今では場の雰囲気もあらばこそさっさとメシを喰ってさっさと席を立ってしまうのだが下っ端の頃は席を立つタイミングをつかむのに苦労していたのだ。

 ところがびっくり今回の助手は全員酒を飲まない、焼き肉を前に「とりあえず一杯」などとやっている他のパートを尻目に操演部のみ「おばちゃんご飯」「ミソ汁早く持って来て」などと早いペースで飛ばしさっさと席を立ってしまった。

 そして部屋に戻ってなにをするかと言えばTVゲームである、このためにうちの助手たちはプレイステーション2を2台とモニタ、iリンクケーブルを持ちこんで来ていたのだ(知らなかった)もともと部屋にあるTVを使って「アーマードコア2」の対戦モード大会なのである。

 部屋に戻ってきてからも宴会を続けている連中が多い中(観光地、繁華街なら浮かれ出るところだろうが山の中では部屋で酒を飲み直す以外ない)ここだけ新人類である、こういう仲間が昔いればどんなにか楽だったことかと思うが私の親方はみな飲んべだったのだよなあ。

 10月13日 (金)

 6時30分起床、せんべい布団で体が痛い。

 アキュラクレーンという化け物のように長いカメラクレーンがやってきて、クレーンアップ、俯瞰などの撮影をする(ウルトラマンの視点だ)

 操演部は今日も今日とてフォグ撒き。

 朝から霧雨が降り続いている、もとより早朝のシーンなので(太陽が照りつけている必要はないので)絵的には気にならないが、じっとりと濡れてくるしひどく寒い。

 撮影のペースも上がらず午後早々ロケ延長の決定がなされる、今日で終わるはずがもう一泊だ。

 こうしてみると昨日現場入りしたのは正解であった、あの布団で3日寝たら身が持たなかったろう。

 夜は今日もジャンクフードを食べながらゲーム大会、確かにうちのみ毛色が違う。

 10月14日 (土)

 天候回復して撮影快調、3時には終了した。

 今回のロケはフォグしかなく、失敗するとか予定外の事が生じるとかいった要素が一切なかった。
 その日の(そのロケの)終わりにたった一つでも「うまくいくか心配なカット」を抱えていると、そのことが常に頭の片隅にあって心底リラックスできないものなのだが、今回は失敗する余地(?)がない、うまくいかないとすれば風の影響くらいのものだがそれは誰のせいでもないし、うまくいかない理由が誰の目にも明らかなので気が楽なのだ。

 それ故、私的には超楽勝なロケーションであったと言えるだろう、フォグマシンを担ぎ泥まみれになって山の斜面を登ったり降りたりしていた助手達にはまた違った感想があるかもしれないが。

 10月15日(日)

 撮休。

 10月16日(月)

 諸準備、ということだが操演部は休み。

 10月17日 (火)

 日活9時開始、GBでウルトラマンの吊り。

 「ウルトラマンの吊り」などというものは特撮中の特撮であって、なんで本編の真っ最中に突然こんな撮影が入るのかと言えば、役者のスケジュールが押さえらないからなのだった(今回はそれなりに名が通った役者が多い)

 そうでもしなけりゃ3日間も休みになってしまう、という演出部のあせりはわからないでもないが本来、特撮と本編ではギアを切り替える必要があり、気分が本編真っ最中(ほんとにちょうど真ん中だ)の今、一日だけ特撮を入れられても全然身が入らない。

 特撮にはその部分部分に異常な情熱をかたむけるスタッフたちの存在が不可欠であり、特殊なことを要しない本編スタッフとは体質も違っているものだ。  実相寺昭雄「ウルトラマンの出来るまで」
というくらいのものなのだ。

 実際にはこのスタッフは「特撮の人達」なのだがそれでも急に心構えを変えることなどは出来ない。

 結果、皆あまりやる気も出ず、難しそうなカットの問題洗い出しといった感じの撮影になってしまったがこりゃ無理でしょ。

 21時終了。

 10月18日 (水)

 撮影はロケーション、操演部は出番なしなので休み。

 10月19日 (木)

 今日も出番がないので特撮の準備をする、着ぐるみの中に入れる鉄骨の骨、ウルトラマンを空中に保持するための小椅子(?)、スタジオに作る操演ベース(作業場にして物置きにして、着替え場所にして、弁当も食えば、憩いの場にもなるコーナーだ)の机の脚や棚を作る。

 10月20日 (金)

 ロケのはずが雨で中止、セットで主人公の少年の家の撮影。
 
 我々の出番は1カット、嵐のシーンでの雨降らし、カメラが窓外から家の中を撮っている時カメラと窓の間に雨を降らすだけ。

 どんなアングルになるかわからなかったので凄い仕掛けをいろいろ持っていったが結局小型の家庭用ポンプで園芸用の散水ノズルから水を撒くだけでOKとなった。

 撮影は朝から始まっているが我々は13時入り、実際には15時くらいに始まり18時には終わってしまった、まだまだ続く撮影を尻目にさっさと帰ってしまう。

 10月21日 (土)

 稲城の林で小型ロボットの操演、このロボットはほとんどがGB撮影の合成だが(なにしろ常に浮遊しているので)人間と「からむ」カットは合成がやっかいなのでせめては足切り(足の先がフレームアウトしている)のサイズくらいは現場処理しようというわけだ。

 ターンテーブルに載せて回転させたり、シャフトに固定して倒れたり(起きあがったり)するカットを撮る、まあなんてことはない。

 18時終了。

 10月22日 (日)

 撮休。

 う~~む、補助的な仕事ばかりで語るべきことのなにもない一週間であった。

 10月23日 (月)

 NTT六本木でロケ、4Fの会議室を「基地、作戦室」に見立てての撮影。
 TVシリーズなら当然スタジオにセットを組むところだが一回限りの映画ではそうもゆかずそれらしいところを借りての撮影になる。

 いわゆるSFチック(基地チック?)な装飾があるわけではないのでちょっと寂しくはあるが大きなスクリーンとその前にU字型に配置されたテーブルがあり、テーブルからは必要に応じて個人用の液晶モニターがせり出して来るというちょっとかっこいい会議室ではある。

 ここでの操演部の仕事は例によってモーションコントロールによる合成の支援。
 壁の一面には美術部の手によって偽の出入り口がしつらえてある、開けてもすぐ壁なのだが合成によって向こう側に格納庫があるように見せようという作戦なのである。

 この入り口は閉じているときは美術部のつくった扉が見えている、もとより壁の前に立ててあるだけのハリボテなので扉は動かない、そのためそれが開く時にはCGの扉を合成して動かそうというわけだ、CGの扉が開いた向こうにはCGもしくはマット画による格納庫が合成されることになる。

 扉のないところに扉を作り、開かない扉を開け、あるはずのない続き部屋を作るというだけで大したスペシャルイフェクツだと思うのだがあろうことかこのスタッフは芝居に合わせてカメラがパンしていく中でそれを行おうとしているのだ。

 つまり最初は扉は絵に入っていないが歩く人間に合わせて左にパンすると画面左から出入り口がフレームインしてくる、カメラのパンが続く中で扉が開き向こう側が見えるという絵にしようというわけだ、実際にそうなっている場所でとればなんということもない絵をもの凄い手間ヒマかけて実現させようという力ワザである、もの凄くうまくいけばそれは不思議でもなんでもない絵になるだろう。
 キューブリック言うところの「成功すれば誰も気が付かないし、失敗すれば笑われる」という典型である。

 実写の動きにCGを合わせる作業をマッチムーブと言う(←そのマンマ)がこれは手作業による地道な作業になる、下絵(CGが合成されるべき実写の絵)に付けたマーカーを参考にカメラや対象物の動きを割り出していくのだがそれをせめて簡単にしようというのが今回のモーションコントロールである、つまり手振りのパンと違いコンピュターでコントロールされたカメラは少なくともパンのスピードだけは一定になっているいうわけだ、データーを渡すわけではないのでどれだけ合成チームの「足し」になっているのかはわからない。

 実は今日はパンだけでなく移動も併用するかも、ということで移動車とレールも持ってきてあった、レールはエレベーターに乗らないので階段を3階分人力でかつぎあげたのだが結局出番はなかった、よけいな手間をかけさせて・・ここで怒らないのは皆は朝8時から仕事をしているのに我々は10時入りで良かったこと、撮影はまだまだ続くのに我々は3時ころには帰ってしまったことによる。


 10月24日 (火)

 ロケ・・だが出番がないので日活で準備、特撮が入る11ステージがやっとあいたので操演ベース(操演部の控え室にして、作業場にして物置きとなる一画)の製作とワイヤー親線を張る。

 10月25日 (水)

 ロケ・・だが出番がないので操演部は休み、と思っていたら特撮の打ち合わせをしたいという連絡が昼ごろ入り17時に日活へ。

 特撮の第1パートである「廃月」というシーンの打ち合わせのみ行う、20時終了。

 10月26日 (木)

 日活9時開始。

 小型ロボット「ゴン」のGB撮影、出番が多いにもかかわらず「ゴン」は終始空中を浮遊/飛翔しているのでそのほとんどがGB撮影による合成になっている。

 現場でもまずダミーのゴンを使って人間の芝居を決め(助監督がゴンを手で持って芝居してみせる)参考用としてそのまま撮影しさらに「ゴン」抜きで本番撮影を行うという面倒なことをしていたわけだがいよいよそのゴンを撮ることになったわけだ。

 GB撮影なのでゴンはカメラから見えない側からの突き出しで支えられることになる、手持ちによって自由に芝居していたゴンの動きをどれだけ仕掛けで再現出来るかが操演部の腕の見せ所である。

 このカットは後ろからの突き出しでゴンをバンクさせ、全体をターンテーブルで回したところでカメラをこう前進させると画面上でこんな動きになるのではないか?、というような頭の体操になる、カメラも含めた総合的な動きの調整が操演部の役目なので責任はあるが面白い仕事である。

 ここのところ補助的な仕事しかしていなかったが久しぶりに主役に返り咲いたような一日であった。

 19時30分終了。
 
 10月27日 (金)

 8時開始、稲城の交番でロケ、本物の交番を借りているのだがこれは普通ありえないことだとか。

 ここでの出番は以前にもやった空気ボンベ直吹きによる風のみ・・の筈だったのだが「風に気を取られたお巡りさんがプランターをひっくり返す」という芝居がうまくいかない、プランターを蹴飛ばしても横にずれるばかりでひっくり返らないのだ。

 ・・・・ところで映画屋は基本的には「俺がやらねば」という意欲に燃えている人間が多くなにかもめ事があるとすぐに首をつっこんでくる、好意ではあるのだろうが操演部である私としては部外者に意見を言われるのはひじょうにうっとうしい、素人考えではそう見えるかもしれないけどそううまくはいかないよ、ということが多いからだ。

 逆もまた真なりと思うのでハタから見ればこうしたほうがいいのに、と思えることがあってもよそのパートの仕事には口を出さないことにしている。

 そしてこのプランター問題は装飾部と演出の問題だと思うので私は口を出さずにいたのだが何度やってもうまくゆかず、対策もなんだかピントが合っていないのでついに介入を決意した、ピアノ線を持ってこさせプランターの足をピアノ線で固定してしまったのだ、これで横ずれすることはなくなり、蹴れば絶対倒れるようになる。

 対策の効果もあって一発OK。

 しかしこういう小細工を見せると北浦氏、大岡氏あたりが操演部の出番がないときでも「なんかあると困るから操演部も呼んどけ」とか言いだしそうで怖い。

 11時終了。

 10月28日 (土)

 セットで大グリーンバック大会だが、操演部は主演の子役に風を当てるだけなので手を分けることにする。
 
 今日は上田、秀平にまかせ私はお休み。

 10月29日 (日)

 稲城方面でロケだが出番がないのでお休み。

 10月30日 (月)

 横浜でロケセット、ビルの一室でフォグを撒くだけなのでこれは辻川一人にまかせる。
 ロケセット終了後、ベイブリッジの実景、更に東京に戻ってお台場のナイトロケになる、このナイトロケが始まる前にお台場で特撮の打ち合わせをしたいと言うので私はこれに合わせて家を出ることにする。

 とは言っても実際に打ち合わせが何時から始まるのか決まってはいない「2時頃にはロケが終了するので3時頃でしょう」というのが演出部の読みだそうだが、何はともあれ昼には連絡しますということになった。

 しかし横浜からお台場に移動するのに1時間とかからない「これから出ます」と言われたのではお台場まで1時間半はかかる私は間に合わない、そこで昼には秋葉原に居ることにした、秋葉から打ち合わせ場所であるテレコムセンターまでは30分少々で行けるからだ、そして私は秋葉ならいくらでも時間をつぶせるからだ。

 「肉の万世」本店でゆっくりとランチをとったが連絡がない、どうしたことかと思ったら1時ころ製作部から電話があり「まだまだかかるようです、少なくも3時ということはないでしょう」ということなのでいつもの巡回コースを回る。

 ・・回ったのだが3時過ぎになっても連絡がない、おいおいと思っていたら北浦氏から連絡が入り今終わったがもはやナイター前に打ち合わせが出来る状況ではないのでナイトロケ後にすると言う、とえいあえず6時半テレコムセンターだそうな。

 いくらでも時間はつぶせると言ったがしかし6時間もつぶすのはつらい、そこで4時頃お台場に移動することにした、お台場はあまり行ったことがないのでそれなりにヒマをつぶことが出来るだろう。

 山の手線で新橋に移動しゆりかもめに乗り換える。

 ところで私が子供のころ、雑誌のグラビアやSFマンガでは「未来の都市」というと重力の法則を無視したような摩天楼が立ち並び、列車が中を走る透明チューブがそのビルとビルの間を結んでいたものだった。

 世紀も変わるというのにいっこうに透明チューブの未来都市が現れず私は不満であったのだがこうして無人の駅から発車する無人の列車に乗り、巨大な吊り橋で海を渡り、まさしくSF画家の夢想から生まれ出たようなフジテレビや科特隊基地にしか見えないビッグサイト、七色に輝く大観覧車などの立ち並ぶ臨海副都心に近づいていくと「空想の着地地点てのはこういうものかもね」とも思えてくる。

 目的地はテレコムセンターなのだが2時間近く時間があるのでお台場海浜公園で降りて、徒歩でパレットタウン方面に向かう。

 パレットタウンというのは大観覧車、トヨタの大型ショールムMEGA WEB(中に自動車の試乗コースまである) 中世ヨーロッパ風専門店街ヴィーナスフォート、SNKのアミューズメントパークなどが集まった目もくらむようなあまりにも人工的な街である、金属とプラスチックとネオンで出来た街、まさしくSF、まさしく悪夢。

 私は実はヴィーナスフォートに行ってみたかったのだ、ここは中世ヨーロッパの町並みが2階分の吹き抜け空間に再現されておりそこに女性向けのファッション、雑貨、レストランの店が入っている巨大なショッピングセンターである、天井には空が描かれており照明によって1時間で朝から夜へと変化する。

 ディズニーランドを手がけたデザインスタジオの手によるものだそうでその本物らしさとあまりにも小綺麗であるがゆえのウソくささのバランスが絶妙、迷いかねないほどに通路を入り組ませ、見通しをわざと悪くしてスケール感を客につかませないあたりもツボを押さえていて一見の価値はある。

 などと遊んでいるうちに時間が迫り、いやけっこうクリティカルな時刻になってしまい集合場所に急いだ。

 実際の打ち合わせと称するものは気合いの空回りしている助監督による、決定事項の再確認に過ぎないものでたいして身のあるものではなかった。

 20時終了。

 10月31日 (火)

 撮休