ウルトラマンコスモス     THE FIRST CONTACT

 11月

本編終了/特撮開始


 11月1日 (水)

 ロケの予定だったが天候不良、9時開始日活にてGB。

 先日の「ゴン」の続き、今日は前回のようにバンクと回転が出来る仕掛け一つであれこれ撮るというわけにはいかない。

 エアシリンダーを付けて気絶してみせたりたり(?)移動車にのせて足が伸びるカットの合成下絵を撮ったりと全部方法が違う、仕掛けが違えばバレ隠し(スタンドの前にグリーンの板を立てたり、シャフトに色を塗ったりする)もそのたびにやり直しになり、ライティングも仕切直しになる、というわけで遅々として進まない、22時終了。


 11月2日(木)

 9時開始日活10St.「ゴン」が悪のワゴン車に飛び込んでミサイルのコントロールパネルを破壊するシーン。

 車に飛び込むまではロケで撮ってあり(というかまあ飛び込むゴンはやはりGBなのだが)これはそのあとのカット。

 実際の車の中は狭いのでコントロールパネルの一部を別に作り車の中に見立ててセット内で撮影するわけだ、火薬などがあるのでGBは難しい、どうするかと言うとゴンの足をフレームから切ってターンテーブルなどに載せその場で操演、直撮りするのだ。

 ゴンは万能工具になる腕を使ってパネルの一部をはずし中のコードを引き出し、自分を犠牲にしてショートさせミサイル発射を停止させる・・のだがこれを何カットかに分けて撮影する。

 ゴンは良く動く作り物ではあるが実際には何も出来ないので、たとえばパネルをはずす芝居の時はパネルに手を縛り付けておきそのパネルを裏から手で押し出してはずしているように見せかける、ということをやらなくてはならない、一度に1アクションしか出来ないのでカットでつないでいくしかないのだ。

 最後にゴンやパネルにチタン合金の火花、ピアノ線切りの火花など数ヶを仕込んでバチバチと発火させてショート。

 18時30分終了。

11月3日 (金)

 日活10St.9時開始、走っていく女の子をGBの俯瞰でとるため緑のパンチカーペットを敷き詰めた幅6尺高さ3尺の「花道」が20メートルほど作られている、カメラの真下から走り出てくることになるのでその花道をまたぐようにしつらえたカメラの俯瞰台も出来ている。

 昨日操演部はさっさと帰ってしまったが、美術部はコントロールパネルのセットをバラシ、荷物置き場と化していたスタジオを片づけ、かなりの残業をして「花道」を作ったらしい、特機部も俯瞰台を作り、照明部はライトを吊っていたようだ、みんなご苦労さんだ。

 というわけで今日は大がかりな撮影だが操演部は女の子に風をあてる程度なので楽勝である、現場は助手に任せ私は特撮用の火薬作りにいそしむ、本編はあと3日で終わり、いよいよ特撮が始まるのだ。


 11月4日 (土)

 ロケ、でも出番がありません。

 11月5日 (日)

 稲城市長峰で総勢250人というエキストラ、プラス、コーラスグループ、合唱指揮者(何をするのかは秘密ですが)などを集めた大ロケーション、大きなマンションのベランダも全て借り切る、という勢いで今回最大の見せ場と言ってよいだろう、集める人数が半端でなく「集めたけれど雨で中止」とか「撮り切れませんでした」というわけには絶対いかないシーンである。

 エキストラの都合上日曜にしか予定を組めないというのも頭の痛いところ、実は先週の日曜の予定だったのを天気が怪しからと1週延ばしているのだ、それでもここのところ天気が安定せず演出部、制作部ともに胃の痛い思いをしていたらしい。

 しかし今日は抜けるような青空、雨の合間にピンポイントで狙ったような快晴、難度高く重要度高いシーンに臨むスタッフの意気込みが伝わるような一日・・・であるはずなのだが、出番なく操演部は休み。

 11月6日 (月)

 大塚遺跡で「遺跡公園」のロケ、8時現場。

 古代から伝わるうずくまった牛のような石像が公園にあるのだが、実はそれは古代人が実在した怪獣を模して作った石像で、地下にはまだそれが眠っているという設定。

 宇宙人の陰謀でそれが蘇るというシーンなのだがまずはそのきっかけ、地震によって石像が揺れる、石像と解説の看板を揺らすのが操演のお仕事である。

 石像は人間が充分後ろに隠れられるサイズなので手で揺らすだけ、看板はピアノ線を結びつけてひっぱるだけ、簡単なようでいて芝居っ気と演出意図の理解が必要なカットである・・のだがハタからみたら操演部は楽勝な仕事をしてるとしか見えないだろう。

 次は怪獣出現のあと、逃げる人々の後ろから怪獣が巻き起こすホコリが迫る。
 走るエキストラに向かって高圧ボンベの直吹きでハッタイ粉(大豆の粉-キナ粉の原料でありそんなような黄色をしている)を吹き付ける。

 NGが出て2回やったせいもあり、あわれ自前の衣装で参加したエキストラ達はハッタイ粉まみれとなってしまった(量を多く吹き付けたわけではないので黄色くなってしまったわけではないが、そこはかとなくキナ粉のにおいがするのだ)

 ここで昼食、ロケはその後場所を変えて継続されるが我々の出番はおしまいなので帰る、これで本編は終了いよいよ特撮である。
 

 11月7日 (火)

 撮休

 11月8日 (水)

 10時開始で日活11St.の準備。

 いよいよ明日から特撮のクランクイン、いきなりヘビーなカットからの撮影開始となりそうなので入念に準備する。

 17時終了。

 11月9日 (木)

 さて今回は(今回も)製作発表されるまでは作品名や、敵の正体を言ってはならぬと思い、そのあたりをぼかして書いていたわけなのだけれども、松竹(配給会社です)のホームページ(←見るべし)で公開されたのでこれは秘密でもなんでもなくなりました。

 今回の新ウルトラマンの名前は「コスモス」 敵の名前は書いてありませんが、あの耳(?)とハサミを見てそれが何者であるかわからぬ人がこのページを読んでいるとは思われません、そうです敵はバルタン星人です。

 特撮編が始まる前に正体がバレて良かった・・というところで特撮の開始、特撮初日のファーストカットは「廃月」と呼ばれるバルタン星人の都市へ地球人の攻撃部隊が強襲をかけるカット。

 カメラがワイヤー親線に吊られセットを前進移動していくとバルタン星人の居住施設(ビルのような岩山をくりぬいた物のような)がドカドカと爆発していくいう派手なものである、操演的には今回の撮影の中でも1、2を争う重たいカットだ。

 ほんとは一日二日は軽く流してしてもらって体が慣れたころに面倒なカットを入れて欲しいところなのである、アイドリングなしでいきなり全開にしても調子が出ないのはエンジンだけじゃないのだ。

 などとこぼしつつ準備に入る、まずはカメラを吊らないことにはフレームが決まらないのでカメラ吊り、そして吊ったカメラを前後に移動させつつ美術部がセットを飾る、飾りと平行して操演部は火薬の準備をするわけだが、カメラの移動に常に一人喰われてしまうのでその他の準備は3人で行わなくてはならない。
 カメラは攻撃部隊のいわば主観であり、破壊しつつ移動していくわけで破壊の範囲は広く人手を喰われるのはとても痛いのだ。
 
 さて石膏で出来たバルタンビルを美術部が各所に配置していく、本来はビルの見え方、場所に応じて破裂玉を仕込んでいかなくてはならないのだがビルは十数軒と数が多く、これを当日行ったのでは時間がいくらあっても足りないので昨日適当に火薬を張り付けてしまってある、本当はこう爆発したほうがいいのだが、とかここはもっと派手にいったほうがいいのだが、とかあってももうどうしようもない、どうしようもないのだがその違いはそう大きいわけではない、ここでディティールに凝って時間を多く費やすということは、他のカットに使える時間が少なくなるということだ、対費用効果というか損益分岐点というか(違うか)を考えるのも必要なことだと思う。

 カメラはAキャメ(そのカットにおけるメインのカメラ)である主観移動の他にBキャメ、Cキャメの2台がセットの各所を狙っている、メイン向けにカッコイイ絵作りをすると同時にB、Cにも見せ場があるように火薬を配置し発火順を決める。

 準備完了したのが午後2時、何度かテストはしたものの火薬に関してはやってみなければわからない、そもそも爆発は「奥から手前」が基本だ、手前から発火させると始めの爆発で後の分が見えなくなってしまう可能性があるからだが今回は移動に従って爆発が進むので「手前から奥」になっている、なるべく後ろの爆発を隠さない配置にしたつもりだがこればかりはやってみなくてはわからない。

 いよいよ本番、しかし久しぶりのシャミセンがいきなりの大ごととは参った、スポーツと同じでシャミセンの「カン」は急には取り戻せないのだが・・・という悪い予感は的中しタイミングは良かったもののスピードを思っていたより早く引いてしまった、あらららら、と思ったが大岡カメラマンから「なかなか良かったじゃない」と声がかかる、はあ、そうですか?

 録画したモニター映像を皆でチェックする、う~んまあ意図したようではなかったがこれはこれでもいいか?
 ま、ダメと言われても石膏ビルを大量に破壊してしまったのでもう一度なんて出来ないんだけどね。

 次はこのカットの前に入る分で山岳地帯を舐めて飛行していく攻撃部隊の主観、やはりカメラ移動。

 なんか不思議な雰囲気を、という注文でドライアイスで冷やしたFOGを山肌に流したりする、まあ何ということもない。

 21時30分終了

11月10日 (金)

 日活11St.9時開始。

 出現したバルタン星人に対して地球の攻撃部隊が猛攻をかけるシーン、村田鉄信くん(すごい名前だと思ったら芸名だそうですが)の入ったバルタン星人を舞台の中央に立たせ、回りに火薬をいっぱい仕込む。
 仕込んでいたら佐川監督やってきてガスバーナーも仕込んで爆発が起こったあと火の海にしてくれと言う。

 というわけで火薬アリのプロパンありのと大スペクタクルカットになってしまった、仕込みとしてはたいして面倒ではないが、操演技術的にはチト難しい、バルタンの前にも奥にも棒状の特製ガスバーナーがあるのだが、手前のガスバーナーを点火するともう画面の下半分は火の海になってしまう、それはまあ狙い通りなのだが、その後は何があってももう見えない。

 攻撃部隊の発射したミサイルが破裂して、何かに引火して火の海になるのだからバーナーは火薬の後に点火されるのだが「間」が空き過ぎるとマヌケであり(カメラは5倍速で回されるので1秒遅れたら、5秒遅れることになる)先行しても変である(火薬を隠してしまい、何で火がついたのかわからなくなる)

 絶妙なタイミングが要求されるところへもって来て、ガスバーナーにはタイムラグがあるのだ、コックを開いてから実際に火が点くまでにコンマ何秒かの遅れが出る、これはガスがホースの中を進んでいく時間なのだが、当然ホースが長ければラグは大きくなる、消防法によってプロパンボンベはセットの外の出せと言われているのだが(なが~~いホースを使えと)そんなことやっていては絶対タイミングが合わない(というか現場が視認出来ない)のでこそこそとボンベを持ち込む(いいのかこんな事書いて?)(時効か?)(←そんなわけないって)

 私が火薬のシャミセンを引く、プロパンのコックを握った上田と入念に打ち合わせを行う、つまり「このくらいのスピードでシャミセンを引くから、あのあたりが爆発を始めたらコック全開にしてくれ」などと。

 バーナーも一度全開にして点火したらあとは即座にほどよい大きさに絞って、しかも強弱をつけて燃えさかっている雰囲気を出さなければならない、この強弱を機械的に行うと違和感ありまくりになるので規則性のないそれらしい燃え方をする必要がある、プロパンのコックひねるだけでも芝居っ気が必要なのだ、幸いにも上田は芝居っ気がありすぎて困るくらい(?)なのでその点は問題がない。

 入念な打ち合わせの甲斐あって一発OKとなった。

 今日はそのあとバルタン出現シーンの背景(バルタン自身はGB撮影)になる、爆発カットなどを撮る。

 21時終了。

 11月11日 (土)

 日活11St.9時開始、廃月に降り立つウルトラマンのカットから、人の吊り降ろしであるが、いままでに1000回くらいやったことなのでなんの問題もない(なんて油断してると事故が起こりかねない)

 ウルトラマンが地面に降り立つと地表から無数の「刃」がハリネズミのように起きあがってきてウルトラマンを襲う、TVなら何かしらの仕掛けで刃を起こし、迫ってくるところまでも撮るところだろうがそこは映画刃は全てCGとなる、そのため刃の手前に居るべきウルトラマンはGBで合成されることになる。

 芝居を決めセットを飾るとまずダミーの刃(人の背たけ程もあるベニヤ製の刃)を置いて「参考用本番」を回す、これはCGの製作(画角、ライティング、パース当)やウルトラマンのGB撮影、合成作業の参考用である、つぎに刃無し、ウルトラマン無しの本番撮影を行い、念のためCG製作の参考用に銀玉(直径30センチくらいの銀色に塗ったスチロール製の玉-照明の当たり具合を見る)を撮り、セットを計測(簡単な測量だ)を行い、カメラの角度、地面からの高さなども記録する、1カット終えるのにえらい手間である(しかもGB撮影はまだなのでこれだけやっても半分しか終わっていないと言える)

 これが何カットもあるので撮影部と現場立ち会いのCG班は一日中大忙しだが操演部は昨日とうって変わって楽な一日になってしまった。

 21時30分終了。

 11月12日 (日)

 日活10St.9時開始。

 「湿地帯」の撮影、合成撮影用にイマジカからモーションコントロールカメラ「マイロ」が来る。

 このマイロは英国製でCGとの連動が簡単に出来るというのがウリのモーションコントロールカメラである。

 今までは実写側でカメラワーク(移動とかパンとか)を行った場合、それにCGを乗せるためには出来た映像を解析してカメラの動きを割り出す必要があった、マイロの場合それを始めからCG用のデーターとして出力出来るということだ、ま、門外漢にはそれがどれだけ画期的なことなのかよくわからない事ではあるのだが。

 さてしかし今回はマイロを更に進んだ使い方で使用するという、つまりロケ現場での手動のカメラワークを解析してミニチュアでもモーションコントロール撮影を行い、更にそれにCGを乗せるというのだ。

 具体的にはこれは「霧の立ちこめる林の中でウルトラマンを見て驚く少年」というカットなのだが、林の中の少年から左にパンすると同じく林の中に立っているウルトラマンがいるという絵になる、このウルトラマンはCGだ、そのためこのカットを構成するためには次の素材が必要になる。

 1・林の中に立つ少年から左にパン(ウルトラマンがいるあたりはグリーンバック)
 2・左からパンしてくると林の中に立っているウルトラマン

 2の素材は林とCGウルトラマンに分解される、林は「ウルトラマンの背景となる木々」と「ウルトラマンの前景になる木々」の2つに更に分解される。
 この林を撮影するためにはまず前景となる木の後ろにGBを置いて前景分だけを撮影し、つぎに前景をはずして背景だけを撮る必要がある、実際の林ではこんなことは出来ないのでミニチュア撮影になる。
 結局「実写の林と少年」「ミニチュアの林(前後2回)」「CGウルトラマン」の3素材がパンしていく中で合成されることになるわけだ。

 ここで問題になるのが最初の素材である実写の撮影である、道志村のキャンプ場にマイロを持ち込めればいいのだがそうはいかないのでこれは手動のパンになる、後の撮影はこの動きを解析しカメラの動きを割り出した後に同じ動きでミニチュアをモーションコントロール撮影し、さらにそのデーターでCG製作を行うことになるわけだ。

 すでに10月12日に道志村においてウルトラマンを見る少年の下絵を撮っている、今日はミニチュアの林を撮影する日だ。

 実は美術部は一週間も前から別班で林を飾っている、特撮の中だけで完結するミニチュアと違い実写とシームレスにつないで違和感のない木を作らなければならないので手間がかかるわけだ、イマジカ班は昨日のうちにやってきて調整に余念がない、もちろん照明も完璧なつながりが要求されるので準備万端をととのえている、操演は・・・ほとんどやることがない。

 というわけで4人を2手にわけ今日は私と辻川だけが現場に来ている、実際にはFOG焚きだけなので辻川一人でも出来る仕事だがカットの重大性にかんがみて私も居るだけだ。

 というわけで暇な私は噂に聞いたマイロの勇姿をじっくり観察することが出来た、写真は以下、しかし超高性能なモーションコントロールであるはずなのだが見た目はなんか鈍重そうな印象だ、特に本体などは南部鉄で出来た天水桶のようであった、変だ。





11月13日 (月)

 9時開始でマイロの続き、主人公ムサシ少年がウルトラマンの手に乗って空を飛ぶシーン。
 
 例によってマイロ的には難しい(?)撮影だが操演的には風を当てるだけなので、昨日休みの上田、秀平両名のみが出動、私はお休み。

 昨日と違ってマイロがダイナミックな動きを見せてくれて見応えがあったとか。

11月14日(火)

 諸準備・・という事は休みじゃないってことなのだが、操演部はお休み。

11月15日(水)

 9時開始で日活10St.ウルトラマン関係のGB・・なのだが、明日の予定に入っている東宝ビルトオープンの怪獣出現シーン準備のため操演部はビルトで準備、日活には念のため秀平1名のみを派遣する。


 ところで怪獣の地面からの出現カットはいつものことながら難しい、何故難しいのかと言えば「怪獣がどこからどうやって」出てくるのかイメージ出来ないからだ。

 海から突然現れる奴はそれまで海底を這ってきて身を起こしたとでも思えるが地面から出てくる奴って何だ?ということになる、そもそも埋まっている奴は体の上の土を掘れないし(土を捨てる場所がない)仮に掘れたとしても足場が無いから出て来られない、両手で壁をつっぱって出て来るのか?土をスロープに(階段状に?)削って出てくるのか? それとも? などと考えていると体長数十メートルの怪獣があっという間に出現するという行為そのものが成り立たないことに気が付く。

 観客は出来た映像を見ているからそんなものか、と思っているかもしれないが、実際に無いところからなにがしかの映像を作り出す側としては、イメージ出来ないものを実体化するのは難しい。

 たとえばの話「怪獣によって強風が起こり家々が吹き飛ばされる」というカットがあった場合、その風は怪獣の「何」によって起こされたのか考えないでは効果を作れない、風を起こす方法はいろいろある、ジェットファンによる持続する広範囲の風、エア砲による衝撃波、高圧ホースによるピンポイント攻撃など。

 羽根をバサバサ動かして風を起こしているならジェットファンを振り回すべきだし、口から息を吹き出しているなら高圧ホース、ソニックウエイブならエア砲だろう、たとえ絵空事でも怪獣がどうやって風を作っているのかイメージ出来るかどうかは重要なことなのだ。
 
 しかし地面からの出現はどうやっても理屈にあわない、ならばどうするかというとごまかすしかない、勢いでごまかすのだ。
 
 (「ガメラ2」でもレギオンが3回に渡って地面から出現しているが、火薬で土を飛ばしその余勢を駆って(?)出てくるという絵になっている、天才樋口真嗣にしても出現の良いアイデアがなかったものと見える)

 今回は(も)とにかく勢いを付けようという方針で行く、当初はエレベーターという説もあったが操演用エレベーターはウルトラマンにあわせたサイズで作ってあり、サイズのでかい怪獣「呑龍(ドンロン)」はとうてい収容出来ない、監督からの「前に出てきたい」という要望もあって今回は斜め移動車で行くことになった。

 45度に傾けた移動車に呑龍を乗せセット下からエイヤっと突き出すのだ、かなり荒っぽくなることが予想され通常の移動車では脱線転覆まちがい無いので、レールを抱え込むはずれ止め付き特製移動車を製作した。

 撮影の手順としてはまず移動車に乗せた呑龍を一番上まで上げて固定する、これを目標にカメラアングルが決定される、カメラを動かないように固定して呑龍を下げ美術部が飾りを始めるという段取りになる、だからまずは呑龍が動くようになっていないと何も始まらない、そのため操演部は前日準備ということになっているのだ。

 前々から準備していたので斜め移動車はたちまちセッティング出来た、むしろ問題は呑龍に鉄製の骨を入れ移動車に固定することの方だ、固定用のアングルをかかとから出すための切開をしたり、不要なパーツをはずしたりする必要があるのだがそういった作業を前もってやっておく時間的余裕はなかったので、それからあとの事はすべてその場判断で行わなくてはならない、つまり迅速な問題解決能力、別名「瞬発力」が要求されるわけだ。
 まあ瞬発力のない人間は映画屋になれないし、操演部は特にそこのところが自慢であったりするわけなので特に問題はなく午後早くには準備完了した。

 いちおう日活に顔を出してみるが、操演部は不在という前提のスケジュールであるために出番はない。

 18時終了。

11月16日 (木)

 さあビルトオープンで呑龍出現! と思ったら天候不良のため日活でGB、気合いが空回りする。

 ウルトラマンとバルタン星人の空中戦をあれこれ撮る、両者「吊り」あり「立ち」あり。

 22時終了。

11月17日(金)

 天候回復せず今日もGB、明日にはオープンが撮れないと困る、呑龍以外の他に撮れるカットはもう無くもし明日オープンに出られなければセットで呑龍出現の後のカットを撮り始めるしかない、そうなるとせっかく苦労して仕込んだ骨組みをバラすことになるのだがけっこう面倒だったのでそれはイヤだ、メンテナンス部もそうなればかかと他を修理しなければならず、でもいずれまた切る必要があり、それをまた修理するハメになるわけでとってもイヤそうだ。

 20時終了。

11月18日(土)

 天候回復、快晴、オープンに出る。

 まずは呑龍を一番上に上げて固定し3台のカメラアングルを決める。

 アングルが決まったところで呑龍をセット下にさげ美術部が飾りを始める。
 ここは「遺跡公園」という設定で出現場所は古墳のような土盛りになっている、普通こういう場合は飾りの後ろから怪獣は出現し、手前の土は火薬かなにかで吹き飛ばしてごまかすのだが、今回は監督の要望で本当に土の下から出てくるところを見せたいという。

 呑龍はセット中央に切られた幅6尺のスリットから姿を現すことになっている、ここに本当に土を入れたら重くて動くわけないので、カメラから見て見える部分のみ、つまりセットの上にあたる部分のみに土を盛る必要がある。

 これが市街地のセットならスリットを石膏板でふさいでその上を飾ればいい、呑龍は石膏板をぶちやぶって出てくるわけだが砕けた石膏板は舗装の一部に見えるだろうから問題はない、しかしここは遺跡でそんな人工物が見えたらまずい、ということは幅が6尺の床がない空間に土を盛る必要があるわけだ。

 美術部が考えた方法は発砲スチロールをアーチ型にカットしたものをいくつか作り、スリットの両脇で支えてその上に土を盛るというものだ。
 
 茶色のスチロールから切り出されたアーチは岩が連なった形(数個のダンゴを一列に並べて押しつけたような形)に造作してあり、呑龍がこれをぶち破ったあかつきにはその折れ目(?)からバラバラになり岩のように見えるだろうという作戦である。

 私としてはこのダンゴ状構造物の一番弱いところが最初に破壊されたらあとはもう力が逃げるのでバラバラにはならず、ダンゴ3兄弟状の構造物が地面から飛び出してくるのではないかと心配なのだが、進言すれば「じゃあどうすればいいと思う?」と言われるのは明らかで、そして他に良いアイデアもないので黙っていた。

 美術部がセット上を飾る一方操演部はセット下で火薬の準備、呑龍が乗っている移動車に土飛ばしの皿をたくさん取り付ける、出現すると同時にホコリと土を飛ばして勢いを付けようというわけだ。

 飾りに入って3時間、昼前に準備が完了した、いよいよ本番である、呑龍を突き上げるザイルには数人が取り付いている。
 「本番-カメラ」の声でカメラが回り始める、撮影助手の声「ハイ」の声で操演部(とお手伝い様一同)が力一杯ザイルを引く。
 土盛りを吹き飛ばす勢いで呑龍が姿を現す、ここぞと思うところで私はシャミセンを引き、土とホコリが飛び散る。

 バッチリだ!これ以上もないほどうまくいった! 

 と思ったのだが3人のカメラマンは皆首を傾げている、土ばかりで肝心の呑龍が見えなかったという。

 さっそくビデオでモニター画面で確認する、爆発的に吹き上がる土盛りは迫力充分だが確かにその中の呑龍はよく見えない、そして土ぼこりが納まる頃には呑龍は静止していて下から出てきたという感じがしない、離れたところから見るとバッチリだったのだがカメラ位置は近すぎたようだ。

 これではどうにもならないのでもう一度ということになる、対策としてはカメラ位置を変更する、火薬の土飛ばしを減らす、ということになった、土盛りの仕掛けそのものはもう変えられない。

 セッティングに時間のかかった美術部一同はもう一度と聞いてタメ息をつく、とはいえこういうことの常で一回目が3時間かかったからといって2回目はそんなにかからない、2時頃には準備完了した。

 再び本番、しかしまたしても見えなかったとなって3回目、今度は火薬は一切止めにする(ので私は失業である)
 3度目ともなると美術部の要領もよくなり1時間ほどで再セッティングが完了する、3度目の本番、これでやっとOKが出た、日が西に傾き始めもう一回は出来ない危ないところであった。

 この後は空抜きのウルトラマンを何カットか撮影するが操演部の出番はなかった。
 18時、全て終了。

 

 11月19日(日)

 お休みでした

 11月20日(月)

 日活10St.9時開始、セットで呑龍の出現の続き。

 山本君が始めて呑龍に入って演技する、があまりうまくいかない。

 呑龍は狛犬のような顔をしているが操作も獅子舞方式である、着ぐるみの中で前かがみになり両手で顔を持って芝居するのだ、つまりこの怪獣には手(前足?)がない、大きな胴体から足と顔だけがつきだしているといった体型もあってずいぶんと芝居がしにくい形状なわけだ、結果本人がやっているつもりよりも表に現れる動きが小さいということだろう監督のOKがなかなか出ないのだ、経験の少ない山本君が入るには荷の重い怪獣だったかもしれない。

 あれこれ指示されるがどうやってもダメ、となると本人はパニックで頭が真っ白になる、やり直しの回数が増えると疲れるし、疲れで動きがにぶるとますますダメになり・・と悪循環に陥りほとんど回らなかった、頑張れ山本君。

 22時終了。

 11月21日(火)

 9時開始日活、昨日の続き。

 昨日山本君があまりの疲労に夕メシもろくにのどを通らなかったと聞いて、危機感を抱いた演出部は急遽ダブルスタンバイ(同じ役をする人間を二人用意すること)を決め、北岡君を呼び寄せた、北岡君はウルトラマンにも入ったことのあるベテランである。

 ファーストカットは北岡君が入る、演出部から一つ手本を見せてやってよと言われた北岡君はここで良いところを見せねば面目が立たぬとばかりにやりすぎかと思われるほどのオーバーアクションを見せた、腰に持病があるのに大丈夫か?と我々操演部が心配するほどであったがこれが効を奏したのか以後山本君の動きもよくなり、結局以後はずっと山本君で通すことが出来た、彼もせっかくの大役を半分取られたくはないだろうし、若いだけにコツさえつかめば体力はあるということだろう。

 SRC(民間の科特隊みたいな組織)の飛行機が呑龍にパンチを浴びせるカットなどを撮る、飛行機もその腹下から出てくる大きなグローブのような武器(??)もフルCGなので現場では呑龍の一人芝居となる。

 22時終了。

 11月22日(水)

 9時開始。

 SRCは呑龍に冷凍ガスを浴びせて冬眠状態に戻し地下に戻そうという作戦をとるが、SRCの意向を無視した防衛軍(悪者扱いである)はせっかく冷凍に成功した呑龍に攻撃を仕掛ける、冷凍のシークエンスは都合により後回しになっていて今日は防衛軍の総攻撃シーンから。

 またまたカメラをワイヤー親線に吊り迫る防衛軍ヘリの主観カット、呑龍ほか地面各所に火薬を一杯仕掛ける。

 怒る呑龍がジャンプ(吊りである、自力では10センチも飛べない)し付近のビルを踏みつぶすカットや防衛軍の攻撃に力つきた呑龍が坂を転がり落ちるカットなど派手な絵を撮る。

 18時30分終了。

 11月23日(木)

 9時開始。

 呑龍の体内にひそみ呑龍を操っていたのはバルタン星人であった(何故と私に聞かないように)倒れた呑龍から出現したバルタンは巨大化して街を襲い始める(何故だ)

 というわけで(どういう訳だ?)バルタン星人による防衛軍への反撃シーン。

 ついでSRCの「子守歌作戦」(?)により空中で眠りこんだ(?)バルタン星人が地上に着地するカット、ほのぼのとしたカットだが頭から降りてきて仰向けに寝てしまうという動きであり、逆さ吊りにされる村田鉄信君は血が昇って(さがって?)大変である。
 21時終了。

 11時24日(金)

 9時開始、バルタン星人のグリーンバック撮影。

 巨大化、ストロボ効果歩き、脱皮(?)など各種。

 ついで空中、空バックの吊り関係、子守歌作戦と冒頭の空中戦用のカットなど。

 22時終了。

 11月25日(土)

 9時開始。

 今日はおおごとである、「冷凍された呑龍」を撮らねばならないのだ、冷凍された怪獣というのは昔から時折でてくるのだが
うまくいったためしがない。

 スノースプレー(クリスマスになるとケーキ店のガラス窓を飾るあれだ)を吹き付けたり、パラフィンを溶かして流しかけるという手があるのだがこれは霜が付いた感じになる、できれば(絵的にわかりやすいのは)「氷付け」という印象のもので、硬質で透明な物の内側に怪獣が見えたいわけだ。

 そこでよく使われるのがサランラップ、これを巻き付けると動かないかぎりはそれらしく見える、しかし少しでも動いたりそれこそ風が吹いただけでもシャワシャワと表面が波うってぶちこわしになってしまう。

 いろいろと問題のある冷凍表現なのに今回は更に難題がふりかかっている、SRCの作戦でせっかく凍らせた呑龍を防衛軍が攻撃して目覚めさせてしまうという話になっているので「攻撃によって呑龍の表面の氷がはじけ飛び、目覚めた呑龍が体に残った氷を振り払って起きあがる」というカットを撮らねばならないのだ。

 つまり一見氷に見えて、攻撃を受けるとはじけ飛び、呑龍が体を震わせると振り払える氷、というものを作りかつ操演しなければならないのだ。

 これがスノースプレーやパラフィンではだめ、もちろんサランラップなど論外であることは言うまでもないだろう。

 とうていうまくいくとは思えなかったので打ち合わせ時にキャラクターメンテナンスの宮川君(氷付け表現が出たばあいの責任者である)と私とで口を極めて反対したのだがついに押し切られてしまった、昔からうまくいったためしがないのになぜこういう脚本を書くかね?

 方法論も打ち合わせでは何も決まらないまま「なにかうまい方法を考えといてよ」ということで終わってしまっていた。

 宮川君と私で考えた方法はまず呑龍の体のディティールに合わせた透明塩化ビニールの氷を作り、これを1ピース10センチ四方程度の不定形なパーツに分割する、これを立体ジグソーパズルといった案配で呑龍の体に貼り付ける、貼るにはなにかしらの接着剤が必要となるが直接体に張ってしまっては後々振り払えなくなるのでまず呑龍の表面に弾着をいくつか付けその位置にくるパーツを「弾着に」貼り付ける、このパーツを支点に他のパーツをパラフィンで止めていって全体像を作る、というものだ。

 結局どのパーツも直接呑龍に貼られていないので弾着が破裂すると支えを失って全て落ちるという読みなわけだ。

 この氷パーツはあたためた塩ビを呑龍の表面に押しつけて作る、そのままだと「波うった塩ビ」にしか見えないので透明樹脂を流して氷らしさを付け加える。
 この作業はえらく手間のかかるもので、冷凍のカットを残したまま2日間別のことをやっていたのは、宮川チームに作業時間を与えていたからなのだった。

 というわけでいよいよ本番、しかし火薬を付けパーツを貼るのに2~3時間はかかると見込まれていた、問題はその間山本君は気ぐるみに入りっぱなしになるということだ、火薬に貼られた氷パーツはしっかりと固定されているがパーツ同士はパラフィンで軽く固定されているだけだ、動いたらたちまちはがれ落ちるだろう、着ぐるみの出入りはおろか身動きすら出来ない、わずか数分入っているだけでバテバテになる着ぐるみを着て2,3時間待つことが出来るだろうか、そしてその後激しく暴れることが可能なのだろうか?

 始めに充分な芝居のテストを行い、一度着ぐるみを出て休息をとったあとついに山本君はスタンバイに入った、さすがに立ちっぱなしは無理と考えられたので股の間に箱を置いて座り、足に負担がかからないようにしてある、本番前にこの椅子を抜いて足で立ち直す時が最初の難関となるだろう。

 まずは操演部が弾着を付ける、これはまあよくある仕掛けなのでそうは時間はくわない次ぎにキャラクターメンテ部がパーツを張り始める、数十個に分かれているパーツにはテープが貼られ番号がうたれているがそれでもそうピタピタとは決まっていかない。

 数カ所から同時に作業を始めるとそれらが出あうところでのつじつまが合わなくなるし、呑龍の下側、オーバーハングしている側のパーツはパラフィンの粘着力だけでは止まらない、結局瞬間接着剤も多用するハメになる。

 瞬間がパーツとボディをくっつけていれば振り払った時落ちなくなる、物どうしでも強度が充分だと複数のパーツが一塊りになってしまいせっかく細かく作った甲斐がない。

 不安材料はいろいろあるがともかくやって見るしかない、一度でうまくいくとはとうてい思えないが2度目があるかと思うと気が遠くなる、パーツは今は作った順に並べられ番号が打たれているが本番のあとはこれがバラバラになってしまうわけだ、正しく並べ換えるだけでも大騒ぎだろう。

 予想どおり2時間以上を費やしてキャラクターメンテ部はパーツを貼り終えた(継ぎ目がうまく合っていないところにはオブラートを貼り水で濡らしてごまかす)アゴ下にはつららも下がっている。

 呑龍の回りから人が捌けたところで操演部は地上の火薬を仕掛ける(防衛軍の流れ弾である)、各部準備OKというところで山本君に足はどうか?と聞けばしびれているようだというのでまず箱に座ったまま足を延ばす、この間数人で呑龍のボディが動かないように押さえている。

 そしていよいよ立ち上がる、各部はもう本番体制である、2時間ごしの待機を終えた山本君にそれほど余力があるわけもなく、長く立っていられるとはとうてい思えないからだ、そうっと箱を抜き、立ち上がらせるとやはりパーツのいくつかがパラパラと落ちる、それは速攻で修正する、もう否やはなく瞬間止めである。

 ヨーイ、ハイで私がシャミセンを引く、パンパンとはじけ飛ぶ塩ビじゃなくて氷、前もって呑龍の表面に這わせてあった2本のピアノ線を2人の助手がサッと引き抜く、ループしているピアノ線が氷パーツの下から抜け出てくる時にパラフィンで接着されたパーツ同士を分離し、かつ空中にはじき飛ばしてくれるだろうという読みである。

 弾着の音をきっかけに山本君は大暴れする、落ち残ったパーツがあるかもしれないから芝居で振り落としてね、と念おししてあるので必死である(もう一度やりたくない人間の筆頭が彼であるのは間違いない)


 思ったよりうまくいった・・と、思う。

 塩ビの破片が飛び散ったという風にしか見えないが、とりあえずは予定通りの絵にはなったはずだ、これでダメどと言われてももうどうにもならないぞ、と思っているとOKが出た、まあ当然だ。

 時刻は2時に近い、山本君、操演部、キャラクターメンテ部は遅いお昼となる、やれやれ。

 この後はGB、パンチで変形する呑龍の顔やラストシーンで遺跡に埋め戻される呑龍の引き絵などを撮る

 22時30分終了。

 11月26日 (日)

 お休みです。

 11月27日 (月)

  今日は各部とも応援を呼んで2班体制、10St.ではウルトラマン(ルナモード)の着地、隣の9St.ではGBでゴンの残りと黒バックでFogや火薬、ドライアイス素材、夜になったら東宝ビルトオープンに移動して火炎放射器による炎素材の撮影ということになる。
 素材大会は上田にまかせ私は10St.のルナ着地を担当、これは今作品一番の見せ場とも言われる凝ったカットなのだ(なにしろこの1カットだけに1日割り振られている)

 これがどういうカットかというと、ルナが空から降下してきて地上すれすれで反転、鶴のポーズ(!)で着地するとそのまま片足で地面をすべっていき、カメラはそれをフォロー、止まったところで振り返って構える、というものだ。

 これだけ聞いたのではどうやって撮影したらいいのか想像もつかない、実はルナはCGになるのだ、とはいえ「それにしても」という代物である、基本的にはパンする特撮セットの中にどうやってCGをはめ込むかということだ。

 実はこれが止め絵ならなんということはない。

1 CG抜きのミニチュアセットをまず撮影する<カラ舞台>
2 CGウルトラマンが立つであろう場所に白バックを置き、前景に当たっているライトを消して前景のシルエットを撮影する<前景のマスク>
3 前景を取り払ってウルトラマンの後ろとなるべき部分だけを撮影する<背景>

 これで終了である、<前景のマスク>を反転させたメスマスクを作り、<カラ舞台>からメスマスクを抜いた絵を作ると<前景>が出来る。
 (アナログ合成時代ならカラ舞台とメスマスクを重ねたものをオプチカルプリンターで再撮影するところだが今はデジタル編集機-というのはコンピューターそのものだが-で簡単に出来る)

 CGのウルトラマンを作ったらオスマスク(ウルトラマンの形のシルエット)を作り(もとがCGなのだからこれは簡単である)<背景>からウルトラマンのマスクを切り抜いてCGをはめ込む、これで<背景の前に立つウルトラマン>が出来る、この絵から<前景のマスク>を切り抜き先ほどの<前景>をそこにはめ込む。

 出来上がり、というわけだ(説明長くて複雑に見えるかもしれませんが、まあ簡単です)

 問題はカメラがパンしていたらどうするのかということであり、すべっていくルナが蹴立てているホコリ(これは実際にミニチュアセット上で撮影する)をどうパンに同調させるかということである。

 前段の答えはモーションコントロールである、要は「止め絵」と同じことで何回パンしてもカメラが同じ動きをするなら合成の要領は同じということだ。
 
 (※実際には「止め絵」ではマスクのエッジがはっきりしていてキレイなラインを描くが、動きのある絵だとマスクがボケてしまう、露光している最中に被写体が動くため背景と被写体が2重に露光される部分が出来てしまうわけだ、これをボケマスクというがボケのないマスクで静止画を合成するより面倒になるのは言うまでもない)

 次の「ホコリとの同調」は火薬とマイクロスイッチによる物理攻撃(?)しかない、本当はホコリ出しタンクを移動させたいところだが、モーションコントロールされたパンに合わせてホコリを移動させるのははげしく難しい、そこで道中に火薬をずらりと並べてホコリを撃ち上げることにする、これだと電気を流すタイミングをコントロールすればいいので問題がすこし整理される。

 そのタイミングはマイクロスイッチをカメラ後ろにずらりと並べ、モーションコントロールのカメラヘッドから棒を付きだし、パンするにしたがって順に押していくという方法を採ることにした、カメラをすこしづつパンして行き対応する火薬が画面中央に来たところでスイッチが入るようにマイクロスイッチを並べていくのだ。

 これは「ガメラ2」でレギオンの「光のムチ」が街を破壊していくカットにおいて、早いパンの中でフレームから爆発をはずさないように発火させる必要があった時、パン棒をシャミセン代わりにした仕掛けの発展型である(発展型というのはその時はパン棒の先に燐青銅の板で作った電極を付け、電極が描く弧に沿って釘を打ちターミナル代わりにしたという原始的な仕掛けであったからだ)
 



モーション・コントロールカメラヘッドとマイクロスイッチ群





ノートパソコンが乗ったモーションコントロールシステム本体




 マイクロスイッチは前後左右どの方向から押してもOKなスプリング式の腕をもつタイプある、行きでも戻りでも関係ないのは便利だがスプリングが押されて曲がっていき、限界を超えるとスイッチが入る仕掛けのため、ゆっくりパンした時と本番スピード(ハイスピード撮影なのでとても速い)でパンした時とでタイミングが代わる恐れがあった(速いとスプリングが曲がるより先に衝撃でONになる可能性がある)そこでテストを行うことにした。

 スイッチが入るとカチッという音がするのだが本番スピードでは音で区別は出来ない(ジャーーという連続音になってしまいどれが何番目の音かなんて判別できない)そこで火薬の点火コードにランプを取り付け、火薬を置くべき場所に置き、スイッチONで電気を流して正しくフレーム内で点灯するかどうかテストした、うまくいっていれば常にフレーム中央でランプが点灯してゆくはずである。

 モニター画像をビデオに撮ってスロー再生して確認するのだがついでにハイスピードの倍率が適正であるかどうかのチェックもしようということになった、ビデオを「アビッド」(ノンリニア編集機)に取り込んで予定の倍率に引き延ばし見てみるわけだ、監督が撮影しながら編集できるようにアビッドが日活に引っ越してきているのでこれが簡単に出来るのである。

 全て問題なしになったのは午後も遅くである、まずは<カラ舞台> 全てのミニチュアを効果何も無しで一度パンして撮影する。
 次が<前景のマスク> ルナが滑っていく位置に白いスチロール板を置き前景に当たるライトを消してシルエットを撮る、道中が長く一度では撮れないので何回かに分けて撮る。
 前景をどかして(業界用語では「わらって」と言う)<背景>の撮影。


 背景をグリーンバックにして次がいよいよマイクロスイッチ連動のホコリ、これはルナの前に来る分と後ろになる分の2回必要である。
 まずは後ろ分、カメラがパンしてくると着地予定の場所でまず平台爆弾がドカンといって土くれを跳ね上げる(着地のホコリは大きいわけだ)つづいてパンに従って弾着がセメント粉をはね上げて行く、ルナが停止、振り返る地点でカメラも停止、余韻という思い入れでエアーで吹いてホコリを出す、これで1パターン。

 次ぎが前分のホコリ、仕掛けはまったく同じだが一応ルナの体の幅分だけ火薬の位置をカメラに近づける、カメラからの見かけの位置は同じなので実は一回でいいんじゃないの? という説はあった、1回やったものをコピーし一つはルナの後ろにあがったホコリとして使いもう一つは前の分として使うわけだ、しかしこれは「ホコリが特徴的な飛びかたをしたらバレる」ので一応2回やろうという意見が出て2回になったものだ、TVと映画の気合いの入れ方の違いとも言えるだろう。

 カメラワークはモーションコントロールであり火薬のタイミングはオートマチックなので問題の出ようわけもなくOK。

 これで終了である、合成作業は今やレイヤーという概念で動いている、PhotoShopなどのグラフィックソフトを使っている人なら説明不要だし、アニメのセルを見たことのある人なら理解はしやすいだろう。
 レイヤーとは必要な部分の絵だけが描かれた透明な板でありそれが何枚か重なって完成された絵を形作るというものだ、アニメでいえば背景の上に遠景の建物が描かれたセルが乗り、さらに手前の人物のセルが乗り、でもそれには口が描かれていないので、口パクだけのセルがその上に乗って完成するというのと同じだ。

 この場合<背景><後ろのホコリ><ルナのCG><前のホコリ><前景>の5つのレイヤーが重なって1カットを構成することになる、不透明水彩で描かれたセルは重ねるだけで下の絵をマスクしてくれるが、画像の場合は上に乗る絵の形を下の絵からマスクして抜いていかねばならないので合成屋さんは大変だ。

 もっとも一番大変なのはパンした下絵に合わせてCGをマッチムーブさせねばならないCG屋さんかもしれない、ともあれ現場では出来るだけの苦労はした、あとは後処理班が苦労してくれ、ということで20時30分の終了。

 追伸、東宝ビルトに出かけたB班は深夜0時くらいまで撮影していたそうな。

 
 11月28日 (火)

 9時開始、日活10St.昨日B班だった人達はごくろうさん。

 今日の1発目は空から降下してきてビルにつっこみ破壊するバルタン星人。

 これは着ぐるみをブランコにして石膏ビルにつっこませることになっている、着ぐるみに充分な質量がないとビルに当たった時ブレてしまいかっこよくないので人間が入っているくらいがちょうどいいのだが、特に芝居があるわけでなし村田君を重石のかわりにして火薬で一杯の石膏ビルにつっこませるのはかわいそうなので鉄製の人形を作ってあった、準備期間中に村田君の体の寸法を測って作ったものなので関節位置などもぴったり合っている。

 まずブランコを作り、石膏ビルのかわりに段ボールのダミーを置いてつっこみのテストをする、これでカメラアングルを決めバルタン星人を吊り上げて固定したら石膏ビルを置く、固定したら切り込みを入れ火薬を仕込む。

 (ある作品において、仕込みの最中に固定してあるピアノ線が切れ、怪獣が高価な東京都庁のミニチュア石膏ビルにつっこんで破壊してしまったという今も語り草になるエピソードがあるのだが同業者の名誉のためにこれ以上詳しいことは言えない)

 書けばすぐだが準備が終わったのは昼直前であった、バルタンのスタート位置はフレーム外なので固定ピアノ線はニッパによる人力で切る。

 よ~いハイでピアノ線が切られる、ブランコして落ちてくるバルタン、いつものことながらハイスピード仕様で回転している頭ではコマ落としのようにゆっくり見える、ビルはかなり細かくきざみを入れたがそれでも抵抗になって出てきたバルタンが予定のコースをはずれる可能性はある、すると「いいところ」で待っているBカメCカメの絵が使えなくなってしまう、それを避けるためにやや早めのタイミングで火薬のスイッチを入れ、壁を粉砕してしまいたい、といって速すぎれば、バルタンの爪も触れない内に爆発すればNGで少なくともメインのAカメは使えなくなる、爪がビルに触れるか触れないかの一瞬を狙って、シャミセンを引く、う~~ん絶妙のタイミングではなかったか、少なくともバルタン星人は少しのブレもなくビルを突き抜けその破壊力を誇示することには成功したと思う。



写真提供 秀平良忠


 ま、だめでも、もう一度ってことはないんだけどね。

 このあと着地するバルタン、今度は村田君入りで撮る。

 格闘に入り、投げられてビルの上に落ちてくるバルタンを撮るためにこの日はもう一度バルタン吊りがあった。

 22時30分終了。

 11月30日 (水)

 9時開始、日活10St.

 格闘続き、基本的に操演部は格闘に入ると一休みという感じになる、TVシリーズでもそうだが始めはその回特有の異常現象や怪獣の得意技(?)による破壊シーンなどがありなんらかの新手の技を見せる必要がある、飛行機なども飛び回りまず忙しい日々を送るのだが、後半戦になると格闘が始まり、そうなると基本的にはFogによる「雰囲気」と足もとのホコリだけということになる、まあ手を抜いていいものではないがルーティンワークであり難しいことはない、2人から3人いれば充分なのですくなくも技師は楽が出来る、たまにある火薬ごと吊りごと以外では出番はないので朝9時から夜9時まで居ても(本番が20~30カット回っていても)2~3カットしか仕事をしていないという事さえある。

 映画ではそれほど楽はさせてくれないがそれでも追いまくられる感じはなくなった、追いまくられるのは役者さん達である。

 22時終了。